【デレマス】「先輩プロデューサーが過労で倒れた」
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49: ◆Z5wk4/jklI[saga]
2017/05/14(日) 12:13:30.79 ID:gwN8ecrL0
 事前に目を通したステージイベントのシナリオに特別なことはなかった。

 ヒーローがピンチに陥り、子どもたちの声援で復活、悪者を倒す。王道だが、王道は正解だから王道と呼ばれる。
 イベントは終盤、殺陣の途中でヒーローがピンチに陥るシーンに差し掛かる。
 ヒーロー役のアクターは、悪者の攻撃をうけて、ステージの中央にがっくりと膝をついた。
 スピーカーからは不穏なBGMが流れ始める。ステージに入りこみすぎた子どもの怯えた泣き声が混ざった。

「ああっ、あぶない! よいこのみんな! ヒーローがピンチです! みんなの声で、ヒーローにパワーをおくりましょう! みんながいっしょうけんめいヒーローを応援してくれたら、このユッコおねえさんがさいきっくぱわーでみんなの応援をさらにパワーアップして、ヒーローに届けます! ユッコおねえさんが『せーの!』って言ったら、みんなで『がんばれー!』って、元気な声で応援してくださいね! いきますよーっ!?」

 流れていたBGMが止まった。

 裕子はステージからゆっくりと、イベント会場に集まっている子供たちの顔を見回していく。
 その場にいる全部の目を、裕子自身に吸い付けようとでもするかのように。
 それから、裕子は笑顔を作る。

「せー、のっ!」

 すぅ、と息を吸う、無数の音が聞こえた。
 その場にある空気が、子どもたちに吸い尽くされ、真空になったかのような一瞬の静寂のあと。
 鼓膜を震わせる、純真で無垢な叫び声が、がんばれの四音が、ひとつの音になって場に響き渡った。
 裕子は満足そうに微笑む。それから、大きな動作で、左手のマイクを口元へ、右手に握った先割れスプーンをヒーローへ。

「よーしっ、いきますよー! ムムムーン……、みんなの応援パワー、ヒーローに、とどけぇっ!」

 裕子の声が響く。子供たちをハラハラさせるのに十分な間を置いて、ヒーローはゆっくりと立ち上がり、ヒーローのメインテーマがスピーカーから大音量で響いた。
 直後、さらにそのメインテーマをかき消すほどの、歓声。

「おおおっ!」

 茜もまた、声をあげていた。両の拳を胸の前で握りしめている。

「ユッコちゃん、すごいです……!」

 静かにそう漏らした茜の声色と表情からは、確かな闘志を感じた。



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