【デレマス】「先輩プロデューサーが過労で倒れた」
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48: ◆Z5wk4/jklI[saga]
2017/05/14(日) 12:12:02.17 ID:gwN8ecrL0
「どうぞー、ステージイベントやってまーす! 見て行ってくださーい!」
茜はよく響く大きな声であたりへの宣伝を始める。
人一倍大きく明るい茜の声が耳に届いたのか、あたりを行く人達がこちらを注目し始めた。
徐々に人が集まり始め、それから数分で、イベント会場は人でいっぱいになった。
俺は急いで風船をヘリウムガスで膨らまし、紐をつけて茜に渡していく。
茜は欲しがる子供たちに順番に風船を渡していき、ヒーローショーがあることを伝えていく。
「くださーい!」
「はーい、どうぞ! これからあっちのステージでヒーローショーをやりまーす! みていってくださーい!」
「次の風船」
俺が追加の風船の束を差し出すと、茜は「はいっ」と返事をしてそれを受け取る。このやりとりももう十回以上だ。
「すごい混雑だな……地域で一番のショッピングモールとはいえ、こんなに混むか? 都心のイベント並みだぞ?」
「風船もどんどん持って行ってもらえています! 楽しいですが、大変ですね!」
「ああ、でもそろそろイベント開始時間だ。始まれば子供はそっちに行くんじゃないか」
と、俺が茜に言ったときだった。
「みなさーん、こーんにーちわーっ!」
ステージに設置されたスピーカーから、裕子の声が響いた。
「こーんにーちわーっ!」
ステージに集まった子供たちの元気のいい返事が返る。
その中でもひときわ大声を出し、俺の鼓膜を破壊しかけたのは茜……と思いきや、それよりもさらに大声の持ち主が、子どもたちの中に紛れていた。
「すごく元気な子がいますね!」
茜も目をぱちくりさせている。
俺の位置からはよく見えないが、ぴょんぴょんと飛び跳ねて深い緑色の髪を揺らしている、小さな女の子の後頭部が見えた。
どこかで見たような気もするが、顔が見えず、思い出せない。
「……気のせいか」
俺は誰へともなくつぶやいた。
「今日はあつまってくれてありがとう! 今日の司会をする、堀裕子です! ユッコおねえさんって呼んでください! いまから、この会場にすっごいゲストを呼びます! みんなでいっしょにお名前を呼びましょう! おねえさんのあとに続いてー!」
ステージ上の裕子がヒーローの名を呼ぶと、それに続いて割れんばかりの子供たちの声があがる。
ヒーローのスーツを身に纏ったアクターが舞台に現れ、場はさらにヒートアップした。
「すごい……」
イベントを訪れた客が全員ステージに注目し、ようやく忙しさから解放された茜がぼそりとつぶやいた。
その目はしっかりと、ステージと自分との距離を見据えている。
その隣で、俺は茜に悟られないように、音を立てないように息を吸って、吐いた。
過労で倒れた先輩はまだ戻ってこられない。茜たちをステージまで連れて行くのは、おそらく俺だ。
茜はステージまでの距離を見ている。俺には茜と同じだけの覚悟があるか――?
考えかけて、とどまる。状況に関わらず、仕事をするだけだ。今までやってきたことを。
「プロデューサーさん!」
「な、なんだ?」
突然、茜から話しかけられて、俺はそちらを見る。
「風船が足りなくなってしまいました!」
「あ、ああ」
俺は慌てて次の風船の束を茜に渡した。
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