【デレマス】「先輩プロデューサーが過労で倒れた」
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47: ◆Z5wk4/jklI[saga]
2017/05/14(日) 12:09:58.51 ID:gwN8ecrL0
「いいですか、茜ちゃん……これからこのスプーンに、私のさいきっくぱわーを送り込みます」
「はいっ……!」
茜は裕子の握る先割れスプーンを食い入るように見つめている。
「行きますよ……はっ! ムムムムム〜ン……!」
堀裕子が念じるように、力のこもったうなり声をあげる。
「おおおっ……」
茜の口からも、興奮の混じった声が漏れていた。
曲がるわけはない……そう思いつつも、俺は横目でスプーンをちらちら見るのをやめられずに居た。
「ムムム……」裕子は苦しそうな声をあげる。「はぁ、はぁっ……まだパワーが足りないみたいですね……でも、高まりを感じます……もう少しで曲がる気がしますよ、さらにパワーを……ムムム〜ン!」
「む、むむむ……!」
つられているのか、茜も裕子と同じように唸りだす。
テントの奥からアイドル二人の苦しそうなうめき声だけが聞こえるのは、異様な状況だった。
俺は横目でスプーンを見ているが、やはりスプーンは曲がりそうもなかった。
「あの、すいません!」
「はっ、あ、はい!」
突然声をかけられて、俺の声は思わず裏返った。
声のしたほうをみると、イベントのスタッフがテントの前まで来ていた。
「ひとまずスタンバイできましたので、打ち合わせとリハーサル、おねがいします!」
「あ、はい」
俺はテントの奥を見る。
茜と裕子も、声がかかったことでスプーンにかまけるのをやめていたようだ。
「それじゃ、リハーサルだ、頼んだぞ」
「はいっ!」
茜と裕子の返事はひとつに重なった。
「あともう少しのところでしたね、きっと声がかかっていなかったら、スプーン曲げは成功していたはずですよ!」
片手に大量の風船の紐を握り締め、茜は興奮した様子でそう言った。
「その素直さは長所だとは思うけどな」
俺はそう言って、その先になにか続けようか迷い、結局なにも言わなかった。
俺と茜はイベント会場の入り口についていた。茜が会場に入ってくる人たちに風船を渡す。
俺はイレギュラーへの対応と、風船の補充係だ。
俺たちのいるところからは、これから裕子が司会を務めるステージが見える。裕子はインカムをつけ、ステージ前の最後の打ち合わせに臨んでいた。
茜はステージ上の裕子を見ていた。
「お仕事が終わったら、今度こそ超能力を見せてもらいましょう、プロデューサーさん!」
茜はそう言って、自分でうんうんと頷いていた。
「どうかな、イベント後はどのアイドルもへとへとになるからな……体力が万全のときにしたほうがいいんじゃないのか」
「そうですか、そうですね……」
茜は残念そうにうなだれる。
「ほら、ここに立ってるときはもうアイドルだ。笑顔、笑顔」
「はいっ!」
茜は元気よく返事すると、姿勢を正して笑顔に戻った。
俺は腕時計を見る。イベント実施時刻の午後二時を回った。
「よし、イベント開始だ」
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