【デレマス】「先輩プロデューサーが過労で倒れた」
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46: ◆Z5wk4/jklI[saga]
2017/05/14(日) 12:07:16.51 ID:gwN8ecrL0
都心から特急一本で行ける地方都市。
休日のショッピングモールは人でごった返していた。
吹き抜けの一階部分に設置されたステージの周囲では、慌ただしくイベントの準備が始まっている。
「美城プロダクションです、今日はよろしくお願いします」
「よろしくおねがいしますっ!」
茜の大声の挨拶は、あたりの人々全員の注目を集めた。
俺は愛想笑いしながらショッピングモール側の責任者に名刺を渡す。
「それで……メイン司会の弊社タレントが先に来ているはずですが、到着していますか?」
「ああ、スタッフ用のテントへご案内しました。狭くて申し訳ないです」
モール側の責任者はステージ裏手のテントを示した。
「とんでもないです」
「開始時刻になりましたらお呼びしますね」
言って、責任者は準備へと戻っていった。
俺は茜とともにスタッフ用のテントへ向かう。
「失礼します」
「今日はよろしくお願いします!」入るなり、元気のいい声が中から聴こえてきた。「美城プロダクションの堀裕子です!」
「ああ、我々も美城プロダクションだ、すこし遅れてしまってすまない」テントの中を見回す。堀裕子以外には俺たちしかいなさそうだ。堀裕子へ茜を紹介する。「こっちは今日のアシスタント」
「日野茜です! よろしくおねがいします!」
「開始までまだ時間があるようだし、二人ともゆっくりしていてくれ」
俺は茜に椅子に座っているように指示し、その場に立っていた堀裕子も椅子へと座らせる。
堀裕子。
俺は記憶を掘り起こす。確か、超能力者だとかで売り出しているアイドルだったか。
オーディションで超能力があると言って憚らなかったらしい。採用に至ったのは度胸が認められたのだろうか。
まさか、超能力を信じて採用されたなんてことはないと思うが……ちらりと堀裕子のほうを見ると、その右手にはしっかりと銀色の先割れスプーンを握り締めていた。
「堀さん、それなんですか!?」
茜が堀裕子の持っているスプーンを見て興味深そうに尋ねた。
「私のことはユッコと呼んでください! そして、ふふふ……よくぞ聞いてくれました!」
堀裕子は再び椅子から立ち上がり、茜の目のまえにスプーンを突き出すようにする。
「私、なにを隠そう、超能力を持つサイキックアイドル、エスパーユッコなのです!」
堀裕子は自信満々に、一点の曇りもなくそう言った。
瞬間、場に沈黙が訪れる。
俺は堀裕子の言葉を扱いかねていた。
事前にそういうアイドルだと知っていても、確かにあそこまで自身に満ちた表情で言われれば圧倒されるしかない。
俺はしかたなく、テントの外を気にするふりをしながらそっと茜のほうを伺う――茜は目を丸くしていた。
「ちょ、超能力!? ほんとですか!」
「もちろんです!」
「ユッコさん、ということは、このスプーン……」
「さん、もいらないですよ! そのとおりです! さいきっくぱわーで……なんと、手に触れずに曲がります!」
「さいきっく! すごいですっ!」
自信満々の堀裕子と、聴いたことを全部真に受けている茜。マンガのような取り合わせだ。
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