【デレマス】「先輩プロデューサーが過労で倒れた」
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45: ◆Z5wk4/jklI[saga]
2017/05/14(日) 12:04:27.14 ID:gwN8ecrL0
幼なじみのアイツは、いつもテレビの向こうのアイドルに憧れていた。
田舎町だ、娯楽なんてなんにもない。だから、夜が更けてからはどの家もみんなテレビを見ている。
テレビの向こうできらきら輝くアイドルになるのが夢なのだと、アイツはいつも話していた。
そして、ついにアイツはそれを実行に移すことにしたんだ。
あの頃はまだ、それがどんなに険しく、厳しく、辛い道かなんて、知らなかったから。
「行きましょうっ! プロデューサーさん!」
「早すぎだろ。待ち合わせの時間まで一時間以上あるぞ」
大声をあげながらプロデューサールームに入ってきた茜に、俺は応接用のチェアに座っているようジェスチャーで示した。
「いてもたってもいられませんでしたっ! 今日はついにっ! 私のはじめてのお仕事なんですよ!」
茜は頬を紅潮させ、鼻息荒くチェアに腰かけた。
「ああ知ってる。俺が取ってきた仕事だからな。体力仕事だ、温存しておいたほうがいいぞ」
そう言って俺はデスクのコーヒーカップに手を伸ばす。
茜が待ち合わせ時間よりも早く来るのは毎度のことで、すでに驚くこともなくなっていた。
さすがに、一時間以上早いのは新記録だったが。
アイドルユニット結成から一カ月とすこしが経った。
茜たち五人は各種レッスンを順調に重ねている。
合間をぬって、春菜、裕美、ほたるたちにはプロダクションから振られる各種の仕事をやってもらっていた。
イベントスタッフや司会、ちょっとしたラジオ出演といったところだ。メンバーそれぞれが知られればユニット全体の後押しにもなる。
茜と比奈にも、単純な仕事から少しずつ振り分けていくことにした。
茜は今日が初の仕事となる。比奈にも同じ仕事を打診してはいたが、即売会だからと断られてしまった。
「仕事の資料は読んだな?」
「はいっ!」
茜は元気よく返事をする。その目はエネルギッシュに輝いていた。
「復習しておくか。今日はショッピングモールで行われる子ども向けイベントのアシスタントだ。いわゆるヒーローショーってやつだな。ショーのメイン司会はプロダクションの別のアイドルが担当するから、指定の衣装を着ての販促物……風船配りが仕事だ。バイトみたいなものだと思っていい。それでも、プロダクションの名を背負ってやることだからしっかりな」
「はいっ!」
「屋内だから日差しにやられる心配もないし、難しくはない。それでも疲れたと思ったら無理せず休憩を入れろよ。……伝えるのはそのくらいだぞ。どうするんだ、あと一時間」
「そうですね……走り込みしてきますか!」
「体力を温存しろって言ってるだろ」
俺は茜にそう言って肩をすくめた。すこしずつ分かってきたが、この情熱が茜の魅力の源泉だ。
俺は買っておいたペットボトルのお茶を手渡す。
「ライブの予習でもしていたらどうだ。ああ、でも声は張るなよ、イベントでは一日声を出し続けるんだ、思ったより疲れるぞ」
「わかりました!」
茜は自分の鞄からオーディオプレーヤーを取り出し、イヤホンをつける。
俺も事務作業に戻るべく、デスクのモニターに視線を戻した。
ほどなくして、茜の鼻歌が始まった。曲に合わせて、小さく体を動かして振付を確認している。
先週、茜たち五人にとっての初のステージが決まった。
五人のための曲の完成よりも前のイベントなので、既存の曲を使う。
プロダクションの看板のような曲で、所属したアイドルたち全員のための曲、どんなメンバーやユニットでも歌う曲だ。
しばらくのあいだは、この曲と新曲のスケジュールを並行して進めることになるだろう。
プロデューサールームの中には、しばらくのあいだ、俺がキーボードを叩く音と、茜の鼻歌だけが流れ続けた。
とても、穏やかな時間だった。
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