380: ◆FlW2v5zETA[saga]
2018/02/20(火) 06:30:18.87 ID:UQb2c9ARO
『話したい事…山のようにあったけど……もうどうでもいい…今は君に…』
イヤホンから流れる歌声に合わせ、ぽつぽつと唇が揺れる。
この道のあと3つ角を曲がれば、今は毎週通うだけの実家へと辿り着く。
ああ、別れたあの日もこの道を通っていた。
それをふと思い出し、歌をなぞるだけだった唇が、不意に小さな声を発した。
「花吹雪…風の中…君と別れた道……」
気付いた頃にはもう、彼女は玄関の前に立っていた。
今日は妹は出撃でおらず、ここにやってきたのは彼女のみ。
それでも毎週通う慣れ親しんだ我が家ではあるが、一人の時にこそ甦るものがあった。
自室の引き出しを開けると、そこには大量の血の付いたハンカチが一枚。
あの公園での件で、当時手当てをしようと使ったもの。
彼の命が、おびただしく染み付いたもの。
「ジュン……。」
何故今もそのハンカチを持っているのかは、彼女にしか分からない。
ただ一つ確かなのは。
それだけが彼女にとっては、明確な彼の跡という事だけだった。
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