青葉「けしの花びら、さえずるひばり。」
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169: ◆FlW2v5zETA[saga]
2017/07/21(金) 04:02:18.08 ID:lURP6mEEO

翌日夜。鎮守府内・射撃場。

かつて拳銃やライフルの訓練用に作られた小さな建物も、今はあまり使われていない。
だが、今でも時折ここで訓練を行う者が、一人だけいた。

彼が構える拳銃には、サイレンサーが付けられている。
味気ない発砲音の後、的には穴。白い的に空いた銃創は、否応無しに彼の中である光景を思い出させている。

自分と同じ制服を纏った、へたり込む死体の記憶。

彼が手を下した男は、我欲に溺れ、殺されるだけの罪を犯した。
元々その男は、下卑た人格で有名な者。
深海棲艦との初回戦闘を生き延びた一人ではあるが、男の部隊も死者を多数出し、生き延びた者も男以外は後に除隊していた。

当時男の部下の中には、彼の学生時代の友人もいた。
その友人もまた、戦闘の際帰らぬ人となっている。
真相は分からない。だが、男のみ軽傷で済んだ事実は、疑いを与えるには充分過ぎた。

しかし、手を下した当時の彼には、友人の件への疑念も、男の犯した罪も関係無かった。
そこに正義や復讐心も無ければ、義憤に駆られた感情も無い。
彼もまた、我欲の為に男の命を奪ったのだ。

粛清の話を受けた折、彼が元帥の意思に背いてでも、自らその役目を負った理由。
それは、全力の抵抗を受けた先に死線を手に入れ、もう一度天国への切符を手に入れたいが為の行動だったのだから。

全力で戦い、殺される事。
あの場所へ行く為の条件。

それが当時の彼にとっては、全てだった。
だが、今の彼は感情を取り戻しつつある。

その中の一つ。
それは、罪悪感と言う感覚だ。

気の抜けた断末魔と血の匂いが蘇り、同時に湧き上がる様々なもの。
今になって感じる男への怒りや、説明し難い達成感。

そして、一抹の不安。




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