164: ◆FlW2v5zETA[saga]
2017/06/23(金) 05:22:10.26 ID:GXp8xFqq0
「………っ!?」
「痛かった?ごめんね……。」
こぼれた血は、あたたかい。
それはまるで、とろけるように甘美で。
唇を伝う血も気にせず、私はキスをして。
付いた傷を眺めて…ぞくりとしたものが、背筋を通り抜けて行きました。
ああ、また『私』の跡が増えたんだ。
これでまた、感情が一つ戻るんだ。
喜びや幸せが戻るまで、何度でも、何度でも傷を付けてあげる。
全部、『私』が呼び戻した跡で。
他の誰にも、こんな事は出来やしない。
「……それでも今は、私がいるよ。
私を“シルクスカーフに帽子が似合う女”になんて、しないでよ…。」
「聴いたのか?」
「うん……あれ、悲しいよ。あなたの事みたいだって思った…。」
「そりゃ予想外だったな…ごめんな。」
「だめ。収まるまで許さない。」
「ありがとう…お前がいなかったら、今頃どうなってただろうな。」
胸元に飛び込んで、顔を埋めて。
そうやって甘えてみせる青葉を、彼は優しく抱きしめてくれました。
だから今、彼に青葉の顔なんて見えていない。
この時本当は、甘えるよりも、抱きしめてあげたかったんです。
でも、どうしても隠さなきゃいけない自分の変化があった。
釣り上がる頬の感覚。
きっとこの時の青葉は…それはそれは、ひどい笑顔をしていたでしょうから。
彼には見せられないような、欲望まみれの女の顔で。
この時一番強かった感情。それは…
“私がいないと、この人は生きて行けない。
これでもう、えいえんにわたしだけのもの。”
そんな、どこまでも下卑た感情だったのですから。
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