162: ◆FlW2v5zETA[saga]
2017/06/23(金) 05:20:03.92 ID:GXp8xFqq0
『こん…こん…』
自分でもびっくりするぐらい、弱々しいノックをしていました。
それでもあの部屋にはよく響いたのでしょう、彼はすぐに気付いて…。
サッシを開けた彼の顔は、見た事もない、悲しげな顔を浮かべていました。
「見たのか……。」
「うん…ねえ、入れてもらってもいい?」
「……上がってくれ。」
隣同士でベッドに座っても、言葉はありません。
何を言えばいいんだろう、何をしてあげればいいんだろう。
考えるほどわからなくて……ただ、ぎゅっと彼を抱きしめる事しか、青葉には出来ませんでした。
「……何があったの?」
「…………。」
「黙ってちゃ、わかんないよ…おねがい……私には、話してよ……。」
「……何で俺だけ、のうのうと生きてんだろうなって思ったんだ。」
「………また、思い出したの?」
「ああ……あの戦闘で死んだ仲間たちや、あの子の事への気持ちが一気にね……今更だ、本当に今更だよ。
今になって、悲しくてたまらなくなって……気付いたら、空砲を撃っていた。」
様々な痛みや悲しみが、混ざり合って吹き溜まりになって…決壊したダムのように、一気に溢れたのでしょう。
それがどれだけの心の痛みになったのか、青葉には全てを想像する事は出来ませんでした。
それはきっと、地獄のような責め苦で。
不意に甦るのは、彼の語っていた天国の事。
感情なんて捨ててしまった方が、心だけでも殺してしまった方が。何かに苦しみ続けるより、ずっと楽な事で。
彼が心を閉ざしていたのは、防衛本能だったのかもしれない。
死にたいと言う気持ちすら、天国への憧憬にすり替えて。
そうすれば、死に場所を探す事さえ辛くないはずだから。
その蓋を開けてしまったのは、『私』だったのでしょう。
それでも…『私』は……。
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