139: ◆FlW2v5zETA[saga]
2017/05/24(水) 04:06:17.76 ID:H6iAFqcy0
「知ってはいたが、目の当たりにするまで本当だと思わなかったよ。
…どうして艦娘になんてなった?」
「…憎たらしかったの…あなたを壊した、戦争そのものが。」
「…それでも『俺』は、帰ってこないけどね。」
「わかってるわ…でも__……何でそんなに寂しそうなのかしら?」
「…何の事だよ。」
「可愛い子ね、青葉ちゃん…この前、じっくりお話させてもらったわ。
ねぇ__……少しずつ、感情を取り戻して来てるのではないかしら?」
「………あぁ、そうだよ。」
青年の肯定に、女は寂しげに微笑んだ。
彼は青葉との交流の中で、失った物を徐々に取り戻しつつあった。
痛みや悲しみ、恐怖に怒り。
そして、愛と喜び。
少しずつではあるが、それらに揺れる感覚を、近頃彼は味わっていた。
それは間違いなく、青葉と言う少女が与えてくれたもの。
だが、過去への感情もまた、改めて噴き出していたのだ。
「……あの子のおかげかしら?」
「きっとね…例えは悪いけど、犬みたいな子だよ。常に『俺』の深い所にいてくれる。
…こんなんになっちまった、『俺』のそばにでもね。」
「それでも、あなたを見捨てた女に会いに来たのね…。」
「あの頃の『俺』は、死んだようなものだったからな…だから今こそ、ケリを着ける為にね。」
「……ずっと、後悔してたわ。
私がしっかりさえしていれば、あなたを殺しそうなんて思わなかったもの。ねぇ…。」
しなだれかかる重さ、懐かしい香り。
それらはかつてこの海で、幸せに夕日を眺めていた頃と同じものだった。
だが、今は違った。
過ぎた年月は心を焼き、今二人にあるものは、思い出の灰でしかない。
それでも彼女にとって、伝えたい言葉は。
「……やり直す事は、出来ないのかしら?」
どこまでも悲しい、わがままな想いだった。
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