137: ◆FlW2v5zETA[saga]
2017/05/24(水) 04:02:11.78 ID:H6iAFqcy0
その日の講習を終え、彼は一人、用意された宿でくつろいでいた。
安宿ではあるが、窓からは慣れ親しんだ海がよく見える。
月夜と海、さわさわとした潮騒の声。
写真を一枚撮り、彼はある少女の元へそれを送った。
カメラには上手く収まらなかったが、何となく、今自身が見ている世界を共有したくなったのだ。
数分後、携帯が震えた。
だがそれは先程彼が連絡した相手ではなく、違う女性からのもの。
何年振りかのその名前に、画面をスライドする手は少し震えていた。
『明日、会えるかしら?』
『あの浜に行くつもりだよ。』
彼はそれだけを返し、以降返信は無かった。
続いて携帯を震わせたのは、とある少女からのものだ。
『綺麗ですねぇ。』と、可愛らしいスタンプと共に返ってきた言葉を目に収めると、彼は微笑を深める。
『ああ、今日の月は本当に綺麗だ。そっちも見えてるかな?』
空だけは、何処へだって繋がっている。例え、遠く離れていたとしても。
出来るなら今夜は…と打ちかけた所で、彼は首を横に振っていた。
机に置かれた、葉をモチーフとしたペンダント。
それは全くの偶然だが、今も彼の背の方を向いて置かれている。
じっと、それを見つめ続けるかのように。
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