80: ◆AZbDPlV/MM[saga]
2025/01/21(火) 02:06:40.05 ID:n4bVmGDB0
(あいつの名前を考えてやらねば……どんな名前がいいだろうか?)
ㅤホームセンターに向かう道中、猫の名前をどうするかを考えていた。考えてみて解るが、名付けというのは、なかなか難しい。自分のネーミングセンスに自信がない。しかしこの先ずっと呼ぶ名前なのだから、慎重に、大事に決めてやりたい。あの猫にすっかり魅了されてしまっている私は、頭の中はあの猫のことばかりだ。ㅤ“自分の言葉を理解できるだろう”と、招いてまだ初日の──それどころか、たった一時間程度の猫に、なぜかそんな絶対的な信頼を寄せている。
(そういえば……統領はどのように私の名前を考えて授けて下さったのだろうか……?)
ㅤ私は生まれて間もなく捨てられた身の上。それを拾ってくれたのは九頭龍組だ。私に名前をくれたのは、御頭様。私の人生は九頭龍組の中に在った。それはこれから先も変わらない。
しかしこの悩む時間も楽しいモノだな。猫のことが頭にあるだけで、胸が暖かくなる。これが、尊いという気持ちか……!
ㅤ猫の名前をあれこれ考えるあまり、前方を見ることをつい怠りがちになりながらも目的地となるホームセンターを目指す。
ㅤふと前を見れば、一匹の茶トラが塀の上で尻尾を垂らし寛いでいる姿をみつける。
ㅤ(猫…!)
ㅤ数分前にはじめて猫に触れられたとあって、猫との接触に自信がついた私は、期待と高揚で暴れる心臓を抑えきれないまま茶トラへと近づいた。
茶トラ 「ニ゛ャ゛ヴヴヴヴッッ!!」
「あ……」
ㅤおそらく私は、ただならぬ殺気を発していたのだろう。威嚇しつつ飛び跳ねながら塀を降り、姿が見えてはいないが、音からしてその場を一目散に去ってしまったようだ。
(やはりあいつが特別なのだな……)
ㅤ物悲しさが胸に去来するが、私にはあの猫がいるじゃないかと気持ちを立て直す。
(あいつとの出会いは運命なのかもしれないな)
ㅤ運命などと、らしくないとは思うが、そう感じずにはいられない。あの猫への愛着と、元よりその気だが、大切にしなければという想いがいっそう湧いて仕方がない。胸がほんのりと熱くなるのが解る。
(あぁ、あいつを撫でたくなってきた…早く買い物を済ませて帰ろう!)
ㅤ急がずとも部屋で待ってくれていると解ってはいても、1秒でも早く帰り、1秒でも長く一緒に今日を過ごしたいと思ってしまう。
坊っちゃんをお護りする道具でなければならない身でありながら、なんと無様なことか。解っている。解ってはいるのだ。しかし口元の綻びを引き締めることも、弾む心を抑え込むことができないまま、私は止めていた歩みを再開した。
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