81: ◆AZbDPlV/MM[saga]
2025/01/21(火) 02:07:59.99 ID:n4bVmGDB0
辺古山 「お前の名前を決めたぞ」
部屋に入って来た辺古山は、手にした大荷物をその場に置くと、直ぐにこちらへ駆け寄り、俺を抱き上げる。辺古山は見たこともないほどの輝いた笑顔をみせていた。
名前……そうか。飼い猫になるのなら“星 竜馬”ではなくなるのは当然か。新しく名前が与えられるとなれば、いよいよ猫としての人生が始まるのだという実感が沸くな。
辺古山 「お前は“リュウ”だ」
“リュウ”か ── 悪くない。
辺古山 「これから宜しくな、リュウ!」
「ニャウ」
新しく名付けられた名前を呼ばれ、短く答えた。
感極まったらしい辺古山は、俺を抱き締めると、身体を左右に揺らしながら、どこからそんな音を発しているのか、不安になるような甲高い唸り声を漏らしている。
(この先の生活が思いやられるな……)
それなりに一緒に過ごしていけば、今よりは落ち着いていくだろうが……落ち着く、よな? いや、落ち着いてくれ、頼むから……。
猫側から見た人間がどう映るのか、身に染みた。反応を示さない猫達の気持ちが、解った気がする。無反応が、全てをやり過ごす最適解だと学んだ。
辺古山 「まずはご飯と水を用意するから、待っていてくれ」
(朝飯なら、獄原と王馬のヤツにもらったんだが。どうしたもんかね……)
そんなことを考えていると、辺古山が荷物から深皿を二枚取り出し、バスルームへと消え、直ぐに戻ってくると、皿の水気を拭いて俺の前に置いた。どうやらこれが俺の食器らしい。
辺古山 「カリカリとウエットの、どちらがいいのか解らなかったから、両方買ってみたのだが……食べてくれるだろうか?」
さっき食べたのは、ウエットタイプだったからな。乾燥タイプはどうなんだろうな? 食べてみたくなった俺は、乾燥餌の袋に近づいた。
辺古山 「どうした? こっちを食べたいのか?」
問われたので、鳴いて答えた。辺古山は破顔し、デレデレと弛んだ顔で俺を撫でる。
辺古山 「ならば、こちらを用意しよう」
乾燥餌の袋を開封すると、中身を皿の中へ適量移していく。乾燥餌が袋から雪崩れるザラザラという音と、餌が皿と打つかる、カランカランと軽やかな音が響いて、餌の匂いが鼻腔を擽る。その様子を眺めているうちに、俺の意思と関係なく、尻尾が勝手に左右に揺れていた。コレは、猫化の影響か? 餌が入った皿から、辺古山に視線を移すと、俺は面食らう。
「?!」
辺古山 「ぐすっ……と、尊い……」
餌を待つ俺の姿に感極まったらしい辺古山が、涙を流していた。
辺古山 「本当に……本当の本当に、私が猫に餌を与えているのだよな? リュウは待ってくれているのだな? 可愛いさの極みッ! 愛くるしいッ! うぐぅぅ……っ!!」
次から次へと、瞳から涙を零して泣いているが、どうしていいのか解らない俺は、気まずさを覚えながらも、カリカリを口にしてみた。
ウェット餌と違って、噛めば硬いペレットが砕け、カリゴリという音が歯から伝導して頭蓋骨に響く。なるほどな。こっちも悪くない。視線を上げると、辺古山が泣きながらカメラを構え、しきりにシャッターを切った。
辺古山 「くぅ……っ! メモリを大量に買い込まなければっ!!」
(おいおい……どれだけ俺の世話だかで金を溶かす気だ?)
辺古山の懐具合を心配しながら、ゆっくりとペレットを味わった。
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