77: ◆AZbDPlV/MM[saga]
2025/01/21(火) 02:04:04.61 ID:n4bVmGDB0
(私が猫を飼う…か)
今、こうしている間にも、自分の部屋で猫が留守番をしているのだろうと考えると、自然と頬と口許が緩んでしまう。
(今頃はもう夢の中かもしれんな)
しかし、浮かれてばかりではダメだ。必要なモノを買い揃えなければならない。放課後にホームセンターに向かわねばな。ペットショップだと、動物たちが私に怯えて騒ぎだしたりしてしまうからな……。
「あ」
(いやまて……放課後に買いに行くまで……餌がないということではないか………。トイレだって……)
今こうしている間にも、猫は私の部屋で過ごしている。猫に必要なモノがなにひとつとして備わっていない部屋で、だ。腹を空かせて鳴いていたり、トイレをしたがっているかもしれない……!
すっかり気分が舞いあがってしまって、なにも考えていなかった! 休んでペット用品を買いに行ってしまうか?! この学園は才能テストで結果を出せてさえいれば、出席や授業態度に関して問題はないのだしな!
逡巡した後、結論を出す。
(よし! 今日は休んでしまおう。先に坊っちゃんに連絡しておかねば)
携帯機を取り出し、見慣れた番号にかける。それほどの時間もかからず、電話はとられた。
九頭龍 『おう、ペコ。朝っぱらから電話してくるなんざ、どうした』
「申し訳ありません。今日は授業を休もうと思いまして、ご連絡をさしあげました」
九頭龍 『なっ?! 休むって、オメー体調悪ぃのか?!』
ㅤ坊っちゃんの声色が焦っている。九頭龍組に拾われた、道具に過ぎない私に、いつだってこのお方は、お心を砕いてくださる。坊ちゃんの道具たる私に、その必要はないのに。それでも……嬉しく思ってしまう私は道具であることをつらぬけないダメな道具だ。
「いいえ。むしろ体調はよいぐらいです」
九頭龍 『? んじゃあ、なにか用事か?』
「はい。急なことで申し訳ありません」
九頭龍 『……なんか妙なことじゃねーだろうな?』
ㅤ坊っちゃんに事前に予定を伝えていないということが、これまでなかったことだったためか、探るように問われる。猫を飼うための道具を一式揃えるためなどと、言えない。
「血を見たり、複雑な内容ではありません。ご安心ください」
「極めて個人的な用事です」
九頭龍 『そんならまぁ……いいけどよ』
坊っちゃんにならば、隠す必要はないのかも知れないが……校則を破っているという後ろめたさからか、つい隠してしまった。
(くっ! 主人に隠し事をするダメな道具で申し訳ありませんっ!!)
「今日はあなたのお側に着けません。道具でありながら、申し訳ありません」
九頭龍 『学園内なら、ペコが心配するような事態はそうそう起きねぇよ。つーか、自分を”道具だ“ってのをやめろって言ってんだろ』
「いいえ。私は道具です」
「それより、くれぐれも周りにはお気をつけください」
九頭龍 「……オメーも気をつけろよ」
ㅤ嘆息しているのが電話越しでも解る。私が道具であることを、坊っちゃんが否定しても……どれだけダメな道具だとしても、私自身は否定してはいけないのだ。
「はい。ありがとうございます」
「それでは失礼します」
通話を切ると、私は部屋へ戻るために踵を返した。
(私がいない間、なにもなければいいが……しかし、猫も急を要する)
(制服のまま学園の外に出るのは、さすがに目立ってしまう。いちど着替えてから、ホームセンターへと向かおう)
(あの猫は今頃、夢の中だろうか? 起こさぬようにせねば)
そんなことを考えながら、いつもと比べ足取りも軽く感じながら、自室へと戻った。
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