76: ◆AZbDPlV/MM[saga]
2025/01/17(金) 23:18:52.76 ID:JYcML8FE0
(だが……)
ここに来るまでの間に蘇った、あいつがいて、テニスができさえすれば概ね満たされていた頃のような“生きている”と実感し、高揚したあの感覚──
全てが許された気がした
喜びが全身に溢れた
自分という存在に意味があるように思えた
──それらが嘘のように今は残っていない。虚しさの去来。
(アレはなんだったんだろうな。名残惜しく感じちまうのは……生への未練か……)
(…………まったく……クールじゃねーな……星 竜馬……)
あんなモノ、忘れてしまった方がいい。
(忘れてはいけないのは、自分の過ちの方だろう?)
(死にたくはねぇ。けど、その日はどんな姿だろうと訪れる。それまでに、ケジメはつけなきゃなんねぇ)
(あいつを不幸にした罰と、テニスで殺人を行使した罪の清算は、死をもって終える)
(忘れるべきは自ら棄てた“未来”への“期待”と“希望”だ)
(……それでいい……それが正解だろう……?)
幸い、今の俺はただの猫だ。猫にテニスは必要ない。余計な期待や希望をもたなくて済む。
(…………)
“あの頃の星 竜馬はもういない”と、言ってきていたが、結局は過去を気にして、戻りたがっている自分をみつけ、ふいに乾いた自嘲を零す。
(今の俺は辺古山に飼われる、ただの猫だ)
(俺の存在する意味も理由も、それでいい)
(…………猫らしく、寝ておくか)
ようやく思考を止める。瞳をとじただけの不完全な闇から、意識が落ちてほんとうの闇へ落ちていく。
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