75: ◆AZbDPlV/MM[saga]
2025/01/17(金) 23:17:27.39 ID:JYcML8FE0
辺古山が出ていってから、寝たフリをやめて目を開ける。
まず考えたのは、部屋で別れた獄原のことだ。
(用が済んだら戻ると約束しちまったのにな……アイツは確実に俺の心配をするだろうな)
(しばらくは俺を探しまわるかもしれねぇな……朝でアレだったからな……)
(……考えなしに居座るのはマズかったか)
(悪いことしちまったな……すまない、獄原……)
戻ると約束をしたクセに、無責任にソレをあっさりと破るようなマネをしたことを反省する。
改めて、体を起こして辺古山の部屋を見回す。こざっぱりとしていて、あまり女の部屋という印象を受けない。原因は、元々ある備え付けの家具を使っているからかも知れない。まぁ、ゴテゴテと飾りたてたような、女っ気のする部屋より、気持ち的には遥かに過ごし易いか。
(しかし、俺が自ら飼い猫生活を選ぶとはな)
学園の外へ出ると決めていたはずだったが……辺古山のヤツがらしくない寂しげな表情をするもんだから、つい同情して残ることにしちまった。
(ったく、らしくねぇよな……)
部屋の中とはいえ、自由度の低さでいえば檻の中とそう変わらない。
(これからは、食事と睡眠を繰り返しながら、辺古山の帰りを待つだけの飼い猫……か)
(だがまぁ、ホンモノの檻の中よりマシなのは、間違いねぇか)
新入りが受ける“歓迎”という名の洗礼からはじまって、看守に目をつけられない程度の陰湿な嫌がらせ……避け方を覚えるまでの間は、まさに地獄といってもいい環境だったあの頃と比べれば、なんてことはない。
しかし、なにもすることがないってのも困ったモンだな。ここを出た方が、やること、やれることは多そうだ。この部屋でできそうなことなんて、思考を巡らせるくらいしか、することがない。だがそれだと、余計なことばかりを考えてしまいそうだ。
囚人である俺が、先をみようとしたところで、すっぱり途切れている。ならば後ろを振り返るしかない。しかし、情熱を注いで打ち込んでいたすべてを不意にした愚かしさ──大切なものを自分の手からとり落とした愚かしさ──それらをわざわざ振り返るなんざ、なんともお笑い種だ。
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