74: ◆AZbDPlV/MM[saga]
2025/01/16(木) 18:08:23.56 ID:Yn/S07zg0
私の問いかけに、猫は“にゃー”と鳴いて答える。もしかして、言葉が解るのか? いや、解っていようといまいと、いきなりこんな知らない場所に連れ込まれたら、不安にもなるか。その気持ちはよく解る。解るのだが──
「私はお前を手離したくない…」
「できることなら、ずっと私の飼い猫として、ここにおいておきたい」
私から目を離さない猫の頭を撫でる。たったそれだけなのに、幸せになれる。
なんど試みても、このふわふわとした手触りをおさめられなかったのだ。こんな機会がまたあるとは限らない。ならばせめて、もう少しだけでも時間が欲しい。許して欲しい。
「……しかし、それは私の都合だ……お前はここから出たがっているようだからな……」
私を哀れんだ神が、ひとときの幸せを与えてくれたのだと思って、諦めてしまおう。どうにしろ、この部屋はペット不可なのだ。隠しながらうまく飼える保証もない。
猫に対する執着、未練を断ち切ることを決めてから、私は撫でる手をとめた。
「……外に……出してやろう」
猫を抱えようと両手を差し出しすと、猫が後ろへと退がった。
「え?」
出たがっていたであろうはずの猫が踵を返し、元から備え付けられいたソファの上へと飛び乗り、座り込んだ。
まさか……私の気持ちを察して、残ろうとしてくれている、のか? 話かければ鳴いて答えるような聡い猫だ。つまりは、そう捉えても良いのか?
戸惑う私を一瞥した後、猫はそのまま体を丸め、寝る体勢に入った。やはりそれは、この部屋に腰を落ち着けるということだろうか?
そうなのか? そういうことなのか? そうならば、そうなのだとしたら……! 確かめてみよう。思い上がりの勘違いだったら……悲しい。
「私の飼い猫になってくれるということか?」
猫 「にゃー」
愛らしい鳴き声が、私の問いに答えた。電光石火の速さで胸がギュウッと締めつけられた。即死級の衝撃だった。勿論これは比喩で、死にはしない。しかしその次には、満開の花が咲き乱れる、春の陽気のような暖かさに包まれた。
今、人生の1/3の目標を達成できた瞬間だ! もちろん、残りは、坊ちゃんの命をお護りする使命だッ!
(あぁ、あぁ……なんて! なんて幸福な日だろうかッ!!)
胸にこみ上げ、昂ぶる感情に、涙が溢れてしまいそうだ!
寝付こうとしている猫を驚かせてしまうのを避けるため、猫を抱き締めたい衝動をグッと! グッと! 抑え込んで耐えた。
「そろそろ、私は部屋を出ないといけない。休みの時間には様子をみに戻ってくる」
「それまで、いい子にしていてくれ」
私の言葉に答えるように、猫は短く鳴いた。
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