72: ◆AZbDPlV/MM[saga]
2025/01/16(木) 12:28:24.56 ID:Yn/S07zg0
『王馬』
獄原 「あ、王馬君」
王馬 「ん? なに?」
『獄原の説得に関しては礼を言う』
王馬に礼を言う日が来るとは想わなかったが、ありがたかったことに間違いない。獄原とサシだったら、話の決着がつかなかっただろうからな。
獄原 「ゴン太を説得してくれたこと、ありがとうだって」
いや、それだとニュアンスがだいぶ違ってくるだろ……。
王馬 「ふーん?」
王馬は意外だと言いた気な顔で俺を見下ろす。
『獄原…正確に伝えてくれ』
獄原 「あれ? ゴン太間違ってる?」
俺の指摘で、獄原は疑問符を浮かべていそうな顔で、俺と王馬をあたふたと交互に見やると、王馬はオーバーに反応する。
王馬 「え? 間違えてんのゴン太」
獄原 「ま、間違えてないよ?! あれ? 間違えてるのかな???」
王馬 「あーあー、まったくゴン太は使えないよねー。猫の通訳もまともにできないのー?」
また王馬が獄原で遊ぶだけの、意味のない会話をはじめた。付き合って眺めているつもりのない俺は、構わず部屋を出た。
一歩、部屋の外へ踏み出す。今の自分が猫だからだろうか? 見慣れたはずの外が、全くの別世界に映って見える。あらゆるモノに見下ろされているような錯覚さえするほど、広く、大きい。
辺古山の居所はどこだろうかと、なるべく探しまわることのないように、目ぼしい場所を考える。
(この時間に向かうなら剣道場か)
目眩がしそうなほど広大な敷地を駆け出す。不思議なほどの開放感に胸が高揚する。人生を捨ててから動くことがなかった、心が動いている感覚を思い出す。
(俺は……間違いなく生きてるんだな……)
忘れていたモノを全身に感じながら、目的地の剣道場を目指した。
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