54: ◆AZbDPlV/MM[saga]
2018/04/27(金) 01:07:53.16 ID:DfuxZ7bv0
ㅤ(飼うとなれば、名前をつけてやらねばな)
ㅤㅤホームセンターへ向かう道中、猫の名前を考えることにした。なにかに名前をつけるというのは、はじめてのことだ。故に、自分のネーミングセンスにいまいち自信がもてない。
(どんな名前がいいだろうか?)
(幸い、あいつは賢い。気に入れば返事をしてくれるだろう)
ㅤ“自分の言葉を理解できるだろう”と、招いてまだ初日の猫に、なぜかそんな絶対的な信頼を寄せている。いや、実際に理解しているように思う。
ㅤ(不思議な猫だ)
ㅤ相応しい名前をつけてやりたい。
ㅤ(あいつが気に入り、かつ、似合うような名前……)
ㅤ(…………)
ㅤ(む…難しいな……)
ㅤ猫の名前をあれこれ考えるあまり、前方を見ることをつい怠りがちになりながらも目的地となるホームセンターを目指す。
ㅤふと前を見れば、一匹の茶トラが塀の上で尻尾を垂らし寛いでいる姿をみつける。
ㅤ(猫…!)
ㅤ数分前にはじめて猫に触れられたとあって、猫との接触に自信がついた私は、期待と高揚で暴れる心臓を抑えきれないまま茶トラへと近づいた。
茶トラ 「ニ゛ャ゛ヴヴヴヴッッ!!」
「あ……」
ㅤおそらく私は、ただならぬ殺気を発していたのだろう。威嚇しつつ飛び跳ねながら塀を降り、見えてはいないが音からしてその場を一目散に去ってしまったようだ。
(やはりあいつが特別なのだな……)
ㅤ物悲しさが胸に去来するが、私にはあの猫がいるじゃないかと気持ちを立て直す。
(あいつとの出会いは運命なのかもしれないな)
ㅤ運命などと、らしくないとは思うが、そう感じずにはいられない。あの猫への愛着と、元よりその気だが、だいじにしなければという想いがいっそう湧いてしかたがない。胸がほんのりと熱くなるのが解る。
(あぁ、あいつを撫でたくなってきた…早く買い物を済ませて帰ろう!)
ㅤ急がずとも部屋で待ってくれていると解ってはいても、1秒でも早く帰り、1秒でも長くいっしょに今日を過ごしたいと思ってしまう。坊っちゃんをお護りする道具でなければならない身でありながら、なんと無様なことか。解っている。解ってはいるのだ。しかし口元の綻びを引き締めることも、弾む心を抑え込むことができないまま、私は止めていた歩みを再開した。
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