53: ◆AZbDPlV/MM[saga]
2018/04/27(金) 01:05:50.80 ID:DfuxZ7bv0
ガチンッ
ガチャッ
「!?」
鍵を解錠する音と、扉を開ける音で闇に沈み込んだ意識は浮上し、自然と瞳がひらく。
(……辺古山が出て行って、そう時間は経ってねーはずだが…)
見上げて時計をみれば、HRがはじまる時間だ。
(……忘れものでも取りに帰ったのか?)
顔をあげると、部屋に入ってきた辺古山と目があう。俺をみた辺古山は幸せそうな笑顔で俺の元に駆け寄る。はじめてみる辺古山の満面の笑顔に驚いて思わず固まってしまう。
辺古山 「ああ、よかった! やはり夢ではないのだな…!」
辺古山 「実はこれまでのことは夢で、扉を開けたらお前はいないのではないかと不安だったぞ」
これまで動物に触れたくても触れさせてもらえなかったせいか、触れても逃げない存在が現れたことを、なかなか現実のできごとだと信じきれていないようだ。そんな辺古山に少し同情する。
辺古山 「起きていたのか? それとも起こしてしまったか?」
辺古山 「起こしてしまったのなら、すまない」
体を丸めている俺に申し訳なさそうに謝る辺古山に、意味が伝わるかは解らないが、尻尾を揺らして問題ないことを示す。その動きをみて、辺古山の頬と目元が、これ以上は緩まないだろうというくらいに緩みきる。
(しかたないとはいえ…崩れすぎだな…)
辺古山 「私はだいじなことに気付いたのだ…私がいない間のお前の食事やトイレについてだ」
(……なるほど)
辺古山 「心配になって戻ってきた。今日の授業は出ずに、今からお前のモノを買い揃えてこようと思う」
辺古山はこちらにまで歩み寄り、俺と視線をあわせるように屈む。今日で何度めになるだろうか、頭を撫でられる。長年竹刀を握り続けたことでできたタコの硬さを感じとる。こいつからは何者にも負けてはならないという気概が常にみえる。テニスで常に上をみていた、あの頃の俺を思い出させる。
(チッ…また余計なことを…どうにかなんねーもんかね…)
ㅤどうにも癖になっているようで、気分が悪い。しかし、そこであることにふと気がつく。
(……ちょっと待て……トイレ……?)
俺は失念していた。生物にはつきものの、排泄という生理現象。これから辺古山のペットとして飼われるとなれば、出したモノを見られる挙句にその後始末をさせることになる……。
(なんの面識もない人間なら、多少の羞恥心はあっても、すぐにやりすごせるだろうが…それなりの交流がある人間にその手の世話をされるのはさすがに耐えられねぇぞ…!?)
(クソッ! なんで居座ることにしちまったんだ!!)
自分の覚悟の甘さと短慮さに嫌気がさす。
そんな俺の心境なんて知りもしない辺古山はクローゼットを開けて着替えをはじめていた。
(自我まで猫になっていたら、こんなことで悩みもしなかっただろうに…なんでこう中途半端なんだ!!!!)
そう、人間としても、猫としても、今の俺は半端者だ。改めて覚悟しないとなんねーな。
(でなけりゃ、羞恥心で心が潰れちまう……)
頭がと胃が痛んでいるところに、着替え終えた辺古山が戻ってきて、先ほどと同じように頭を撫でる。
辺古山 「改めていってくるからな」
「……にゃー」
辺古山が部屋を出るときと同じように、しかし、すぐには返してやれないながらも短い返事でもう一度送りだした。
せっかくあいつが俺のために、いろいろと買い揃えてくるってんなら、興味を示すくらいのことはしてやらないとな…。飼い猫ってのも大変だな。まあ、あいつらはそんな殊勝なことは考えちゃいないだろうが…。興味のあるモノと、ないモノへの反応が素直だ。そんなところが可愛いんだがな。
しかし、辺古山にとっては俺がはじめて触れあえる猫なんだ、できる限り落ち込ませないようには努めるか。
(……帰ってくるまでに腹を括っとかねぇと……)
ㅤ買い物はなるべく時間をかけてくれと願った。
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