5: ◆AZbDPlV/MM[saga]
2017/03/11(土) 01:56:34.59 ID:XmOu0iY50
「……」
俺の1日は陽が登ろうかという時間からはじまる。これは監獄にいたことにより身についた習慣だ。
体を起こそうと身を捩ったが、腹筋に力が入らない。少し浮いたとしても、すぐに背中が後ろに引かれたように戻っちまう。
「?」
体を起こすだけの簡単なことだ。だが、2、3度同じことを繰り返してみるが…
「にゃー (動かねぇ」
「!?」
(今の…にゃーって声はなんだ……?)
(いやいや…聞き間違いだろう…?)
イヤな予感に焦りが生まれる。しかしまさか、俺が“にゃー”なんて口に出すワケがねぇ。自分の馬鹿げた思考に自嘲してから、もういちど言葉を発してみた。
「にゃー」
間違いなく、俺から発された声だった。
(冗談だろ?! どうなってやがる!?)
上体を起こせないならと、体を横向けて起きあがる。それから真っ先に立ちあがろうと脚に力を入れる。
(立てねーことはねぇな…だが、やはり不安定だ)
立っていられたのも数秒間だけで、すぐに上体が前に傾く。そして、確かめるように視線を落として、手をみてみる。
(はっ…)
乾いた笑いが込み上がる。そこにあったのは人間らしさの欠片もねぇ、毛むくじゃらで肉球のついた前足だった。
(まったく…笑えねぇなぁ)
(アンジーじゃねぇが、こいつは神様からの“人間をやめろ”っつーお告げかも知れねぇな)
非現実的な状況にありながら、どこかそれを受けとめて諦めている自分がいる。悪足掻きしなけりゃならない理由が、俺にはないからだ。
俺は冷たい地獄のような監獄の中で、いずれ処刑されるその日をただ待つだけの人間。
自分の人生を自分で捨てる覚悟をきめて、マフィアを潰したんだ。人間としての価値はない。だったら逆にこの先、猫として生きてみるのも悪くねぇかもな。
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