3: ◆AZbDPlV/MM[saga]
2017/03/11(土) 01:53:27.81 ID:XmOu0iY50
「……」
剣道場にてひとり、正座をして眼を閉じる。
止水明鏡。静寂の中に自分の意識を落とし込み、この場の空気と一体になるよう心を鎮める。
ここまではいつもと変わらない。しかし、この先へ進むためには私が自然と放ってしまっている殺気も鎮めなければならない。
(気配を消すということが、これほどに難しいモノだったとは……)
(しかしだからこそ、これを極めれば私はより高みへと登りつめられるということ)
(坊っちゃんを確実にお護りできる力にする)
自分から発されている殺気を、また自分の中へと閉じ込めるイメージを描く。なかなかうまくいかないが、これを続けていれば、いずれはモノにできるはずだ。
何者かの気配が、背後に現れたのを感じる。閉じていた眼を開き、背後の気配へ呼びかける。
「……誰だ」
私の問いに答えた声は
猫「にゃー」
「?!」
予想だにしなかった可愛らしい声に、私は弾かれるように振り向いてしまう。その視線の先には、頭頂部だけ茶色で黒い毛並みの猫がたっていた。
「ね、猫…ま、迷い込んで来たのか?」
この学園は広い。故に迷い込んでここまで来てしまったのかもしれない。その猫を外へ帰してやろうと思い手を伸ばそうとしたのだが、その手をとめる。
触れようとすれば、おそらく私の殺気に恐れた猫が、またあらぬ場所へ逃げていってしまうかもしれない…と。
「そのままここで待っていてくれないか? …と言ったところで、猫に私の言葉は通じないか……」
詫びしい気持ちを抱えながら、私の代わりにこの猫を外へ逃がしてくれる人間を探そうと、なるべく猫から離れて出口へ向おうとしたのだが
猫「にゃー」
その一声が、私を引き止めているように聞こえ、足をとめてしまう。
薄い灰色の双眸が真っ直ぐ私を見つめている。
(私を…恐れていないのか……?)
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