メイド「私の嫌いな貴方様」
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110: ◆TEm9zd/GaE[sage saga]
2019/03/09(土) 19:43:37.99 ID:XWj0qJN60


………………。
…………。
……。


ああ、こいつは恋をしているんだと思った。
一目見て分かった。

なぜ分かったかと言うと、私と同じだったから。
気づけばいつも目で追って、見つけると嬉しくて自然と笑顔が浮かんで。

私もそうだった。

違うのは彼女が眩しいということ。

私だって一年生の時に演劇でお姫様役をやれるほど認められていた。人望もあった、もっといえば見た目も良かった。

でもきらきらと輝いているかといえば首を傾げるものがあった。

確かに舞台の上では私は輝いていたのだと思う。
でも、それは私じゃない。
私が演じているお姫様が輝いていたのだ。

劇の上で輝けば、私の好きな人は誉めてくれる。
でも誉めるだけだ。私のものにはならない。

どうすれば私の思いは届くのだろう。
決まっている。私が一歩踏み出せばいいのだ。
好きです、と思いを伝えればいいのだ。

だが、私は一歩踏み出せずにいた。

だって、彼女と私の間には見えない溝があるってしっていたから。
踏み出したら溝に足をとられてこけてしまう。
こけても彼女は私に手を貸してくれないだろう。
私は惨めったらしく、もがいて立ち上がるのだ。
きっと立ち上がった場所に私の居場所はない。

それだけだったらまだいい。

溝が、溝だと思っていたものが深い深い崖だったらどうだ。

私は崖から落ちて二度と目を覚まさないかもしれない。
運良く死ななくても、もう上まで上れはしないだろう。


だから、私は崖の向こうの彼女を見つめるのみ。
ここにいたら触れることはできない。私のものにはできない。
けれど、見つめることはできる。
見つめ、時には亀裂越しに言葉を交わすことができる。
これは恋ではなく、憧れだと思うようにした。

それで満足だった。
満足だと思うことにした。

諦念のうちに私は私の初恋を棄てた。

そう思っていた矢先、女ちゃんがあらわれた。





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