23:名無しNIPPER[sage saga]
2017/01/09(月) 00:09:48.61 ID:JSGxJH370
◇◇◇
その後、私は何事もなかったかのように街へと戻されました。
空……ドームの天井はすっかり暗くなって、星を模した照明がいくつか光ってます。
「お疲れ様です」
黄緑色のジャケットを羽織ったちひろさんが、私を待っていました。
「……無事だったんですね」
「ええ、忍者みたいな動きにはなれてますから」
冗談めかしてそうは言っているけれど、きっと命の危機すらあったんでしょう。
「……聞きましたか?」
「はい」
自分の口から出たのは、驚く程覇気のない言葉でした。
「私には……何もありませんでした」
シンデレラガールと言う存在も、『アイドル』と言う存在も、全て用意されたものでした。
それどころか、私の『島村卯月』と言う存在も、与えられたものでした。
「本当に、そう思いますか?」
違う、と言いたい。でも、そう叫び気力も私にはありません。
「……あ、の、ちひろさん」
「はい」
「どうして、この世界のことを私に教えたんですか?」
この人は、どうして私が――この世界が偽物であると教えようとしたのだろう。
知らなければ……それなりに幸せだったかもしれないのに……なんで。
「……そうですね、『アイドル』が好きだから。『アイドル』が見たいから、です」
その言葉の意味が、理解できませんでした。
「……卯月ちゃんは、『アイドル』が好きですか?」
「……」
問いに答えることができました。
「少し前の私なら、好きだって言えていました」
「なら、大丈夫です」
微笑むちひろさんに、思わず呪いの言葉を吐きそうになります。
でも、迷うことなく微笑む目の前の人に……確信を持った瞳で私を見つめるちひろさんに、何も言えませんでした。
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