■■「島村卯月、頑張りますっ」
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19:名無しNIPPER[sage saga]
2017/01/09(月) 00:05:42.96 ID:JSGxJH370
◇◇◇

 草の匂いが香ってきました。お花屋さんでお花や植物の匂いはよく嗅いでいましたが、それとは全く異質な匂いがします。
 整った人工物ではなくて、枠に収まらない生命の力が宿った香り。
 光の先にあったのは、何処までも広がる草原。
 遥か彼方に森と山が見える。青い空には歪な雲が浮かんでいる。
「……これが」
 草原に向かって足を踏み出す。伸びっぱなしの草が肌をくずぐって、ちょっとだけ痛いです。
「外の世界……」
 見渡す限りの広い世界がそこに広がっていました。星を殺してまで生き延びた人類がたどり着いた世界。
 振り返ると、白い卵のような巨大な建造物が草原に突き刺さっている。白い天蓋で覆われた狭いドームの中。私が、昨日まで世界の全てだと思っていたところです。
 
 不意に、太陽――恒星に向かって手を伸ばしたくなりました。届かないなんてわかっていても、そこにある星をつかんでみたかった。
 もちろん、掴むことなんてできません。でも、握った手のひらには太陽の温もりが宿っている。
 今まで生きてきた世界では、絶対につかめなかった温度がそこにありました。
「ああ……」
 だから、分かってしまいました。
 私が今まで生きてきた世界は全部作られたものだったんだって。

「はあ……困った人ですね」

 後ろから、声がしました。
「あ……ちひろさん」
 振り返ると、そこに居たのはちひろさん……ではない。
 黒いジャケットを羽織った、『千川ちひろ』と同じ顔をした何かがそこに居ました。
「あなた……は?」
「あなたにとって、それに答える意味はありませんよ」
 そう言った黒いちひろさんの目は、まったく笑っていませんでした。
「あっ……」
 思わず助けを求めて周囲を見渡します。でも、ちひろさんの姿はありませんでした。
「あのイレギュラーは、もう居ませんよ」
 私の心を見透かしたように、ちひろさんは冷たく告げます。
「さあ、ちょっとお話をしましょうか」


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