新田美波「わたしの弟が、亜人……?」
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763: ◆8zklXZsAwY[saga]
2019/01/26(土) 21:49:11.09 ID:ymR8HEsBO

 奥山はライターを点けた。ゴミ箱の紙束にはオイルが振りかけられていて、油が染み込んだところの黒っぽく変色していた。インクが滲み、文字が溶けてゆく。奥山がライターを手放す。落ちていく際、ライターはくるりと下を向き、回転にあわせて火が揺らめいた。そのせいで火が消えてしまうのではないかと錯覚するほど赤っぽいオレンジ色の光熱がか細く揺らめいたが、ライターが紙束に落ちたとたん火は炎となって燃え上がり、あらかじめ仰け反ってゴミ箱から離れていた奥山の顔に熱気をぶつけた。


フォージ安全社員1「な、何してる!?」


 黒い煙が吹き上がり、プラスチックの溶ける臭いがサーバー室に充満する。火災警報が響き渡り、CO2ガスの放出までの三十秒のカウントダウンを開始する。部屋の中の社員たちは恐怖に急き立てられて出口のガラス扉へと殺到した。

 いちばん先頭の社員がガラス扉を押し開けようとする。扉は壁のようにびくともしない。急かす声と罵る声とガラスを叩く音が雑多に混じって響く。扉は壁のようにびくともしない。片手で押す、両手で押す、肩でぶつかる、二人がかりで扉をこじ開けようとする。扉は壁のようにびくともしない。大声が悲鳴に変わる。


IBM(奥山)『コ……ラ、コレ?……PEF……』


 奥山のIBMがガラス扉に背中を押し当てて四肢を踏ん張っていた。ガラス一枚隔てた背後から悲鳴が飛び交い、乱れるのとは対照的に、意味のない舌足らずな言葉を奥山のIBMはつぶやいた。IBMは背中でガラス扉の振動と命乞いの叫びを受け止めながら、日向ぼっこをしているかのように動かなかった。セキュリティ・サーバー室はいまやガス室のような様相を呈している。



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