618: ◆8zklXZsAwY[saga]
2018/07/08(日) 20:23:48.96 ID:Wqc3ZOPPO
教室に入ってきたのは友達とはいえない距離間のクラスメイトだった。彼女はアナスタシアを見て、一瞬驚いたように口をすぼめてからおはようと言った。それから「すごく早いね」とそのクラスメイトは続けた。
アナスタシアは「うん」とだけ応えた。理由を説明することはむずかしかったからだ。さいわい、相手は追及するつもりがなく自分の席にスクールバックを置いた。
窓は大きく開けられ光と風をいっぱいに取り込んでいた。ふわりと風に浮かんだカーテンに視線をやってからクラスメイトはアナスタシアに「窓閉めてもらっていい?」と言った。
他のクラスメイトが次々と登校してきて、教室に入ったとたん、彼女たちは室内の涼しさを喜び感嘆したように声をあげた。教室はにわかに騒がしくなっていった。宿題や部活、気になるアーティストの新曲やお菓子やおしゃれなど様々なことが話題にあがったが、今朝はやくNisei特機工業の石丸竹雄が出張先のホテルの一室で刺殺されているのが発見されたことを口にする者はいなかった。
そんな教室の様子は、登校するまでの一見いつもと変わらないように見える風景のことを思い起こさせた。寝て起きて朝食を食べる女子寮であったり、学校やプロダクションにむかうときに通り過ぎる街中、行き交う人びとのことであったり、校門の隣で緑の葉を繁らせている桜の木であったり。風景には空気と光があり、肌の感覚が風や熱や音を記憶していた。それらはまるで亜人などはじめから存在していなかったかのような風景だった(例外はさらなるテロに対する厳戒警備にあたっている警官たちで、いまアナスタシアが眺めているチラシもその警官たちから渡されたものだった)。
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