新田美波「わたしの弟が、亜人……?」
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616: ◆8zklXZsAwY[saga]
2018/07/08(日) 20:20:05.88 ID:Wqc3ZOPPO

 晴れ渡った冬の車内、ロシアはとてつもない寒波に見舞われていた。暖房の調子がわるく、途切れ途切れに吐き出される温風は調子を崩した犬の喘ぎに似ていた。窓ガラスが白くなっていたのは曇りのせいではなく凍ったせいだった。

 空気そのものが凍るほど寒い日に母娘ふたりで車に乗ったのは、明日は仕事なのにガソリンを入れることをすっかり忘れていたためだった(ついでに灯油を買う必要もあった)。母親は七歳になる娘に眼をやった。ふてくされていた。人形アニメが見たかったのだ。ひとりでも平気だから家にいると駄々をこねたが、もちろん母親は有無を言わさず防寒着をしっかり着込ませ車に乗せた。いまでは防寒着の前は開きマフラーはほどけていた。寒さよりこんな風に窮屈にされるのが我慢できないとでも言いたげな風だった。

 母親は寒いでしょと言いながら直しようとアナスタシアに手を伸ばす。アナスタシアは身体をはんぶん捻って母親に背を向けその手から逃げると、アーニャは亜人だからいいとぼやいた。

 母親が息を呑むのが気配でわかった。二、三回ゆっくり呼吸して、アナスタシアは慎重に瞳と首を動かした。母親は顔を前に向けていたから、横顔しか見えなかった。それでも母親の顔面に強張っているのがわかった。怒りと慄きと悲しみがいっしょになって直しようのない亀裂を刻み込んでしまっていた。



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