534: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/12/23(土) 00:06:34.52 ID:FyC54XJBO
中野「アーニャちゃん、アイドルだって。知ってた?」
作業を続ける永井に中野が訊いた。つい最近知った凄い知識を友達に披露するときのような口振りだった、永井はナイフを止めることなく答えた。
永井「なんとなく」
永井のそっけない返答を聞いた中野が眼を見張る。
中野「おまえの姉ちゃんとユニット組んでるだろ?」
永井「だからなんとなく知ってるんだよ」
中野は「えーっ」と不満げに口から洩らした。アナスタシアは悲しくなり、重みにも似た痛みを心に覚えた。
穴を開け終わると、永井は発泡スチロールとロープを中野とアナスタシアに投げ渡した。ロープの端を自分の身体に結びつけるよう二人に指示すると、永井もバッグを肩にかけてから同じように二本のロープの端を自分にくくりつけた。それから発泡スチロールを持ち上げると、崖まで歩いていった。中野も当然のように崖まで歩いていった。アナスタシアはすこし迷って、ロープがピンと張られる前にやっと小走りで永井のところまでやって来た。
はるか下方から波の砕ける音が聞こえる。水平線は黒く塗り潰され、海と空は一体になっていた。アナスタシアはそのときはじめて星空を見上げた。思わずため息をつくほどの星空だった。
中野「でもよ、こんなもんが浮きになんのかよ」
中野の言葉にはっとしたアナスタシアは持っている発泡スチロールに視線を移した。下を向くと、波の音がはっきりと意識され、いまから自分が何をするのかがわかり、胃がきゅうっと締め付けられるような感じがした。
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