446: ◆X5vKxFyzyo[saga]
2017/09/25(月) 21:01:21.09 ID:4fkctst+O
ーー午後三時。
グラント製薬の社長は左手の親指の爪を切っていた。安心しているというよりは、油断しているといった様子だが、爆破予告した佐藤らは予告した時間になっても現れないのだから、無理もない。グラント製薬の社長ははじめから爆破など不可能だと考えている。
パチンという爪切りの音がする。切ったところがなめらかになるようやすりをかけ、爪に息を吹き掛ける。
社長は爪切りの出来映えに満足している。時刻は午後三時から十五秒ほど過ぎている。
轟音がハンマーのように上空から襲いかかってくる。社長の身体が空気の振動で揺らされるが、そのあとに続く生体的な反応も感情的な反応も行われなかった。グラント製薬社長の最期の記憶は、身体を揺さぶる凄まじい、それも一瞬にも満たない刹那の衝撃の記憶だけだった。
よく晴れた水曜日の午後三時。乗員乗客あわせて七十二名を乗せた旅客機がグラント製薬本社に墜落した。
ーー
ーー
ーー
968Res/1014.51 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20