445: ◆X5vKxFyzyo[saga]
2017/09/25(月) 21:00:12.26 ID:4fkctst+O
午後二時五十五分。機内アナウンスから犯人の声が響く。
『Are you guys ready? Let's Roll!』
客室乗務員はとてつもない恐怖に襲われる。この言葉はよく知っている。二〇〇一年九月十一日、ハイジャックされたユナイテッド93便を奪取しようとした乗客の一人がコックピットへの突入の直前に言った言葉。この言葉によって、犯人の目的がわかった。同時にいまコックピットにいる犯人の正体にも思い当たる。
佐藤。亜人の佐藤。水曜日の午後三時にグラント製薬本社ビルを爆破すると予告した亜人の佐藤。
そのとき、旅客機の角度が垂直になる。ノーズダイブする旅客機のなかは悲鳴がこだましている。客室乗務員はコックピットの扉まで転がり落ちていった。落ちてきたのは彼女のほかには音楽プレーヤーだけで、落下した衝撃で電源がオンになった。
閉じられた扉を背に、悲鳴を聞きながら客室乗務員は乗員乗客全員の顔が見えた。フライト前の記憶が走馬灯にように浮かんだ。乗客たちはみな恐怖していた。客室乗務員は、かれらが怖がらないように立ち上がって仕事に戻りたかった。だが、垂直に近い角度で急降下する旅客機の通路は、崖のように客室乗務員の眼前に立ちはだかっていた。
客室乗務員は思った。死ぬんだ。わたしたちみんな、ここで死ぬんだ。客室乗務員は泣いた。落ち着いた振る舞いなどできるはずもなかった。どうしようもなかった。喉から渇いた嗚咽が洩れた。
《There'll be a golden ladder reaching down
When the man comes around/金色に光輝く梯子が地上へ降される。そのときその男がやって来るのだ》
音楽プレーヤーのスピーカーから曲が流れる。ジョニー・キャッシュが、まさにこの状況にぴったりな歌詞を歌う。プレーヤーは狂ったように何度も何度も同じ曲をリピート再生する。
佐藤「−−は、は、は−−」
旅客機を操縦する佐藤が、ものすごいスピードで接近する地上の風景を見ながら笑い声をあげる。けたたましい警報の音も無視して、佐藤は機首を下げたままにしている。大量のジェット燃料を積んだ旅客機はそれ自体が爆弾だ。旅客機の速度はすでに音速を越えている。時刻は午後三時ちょうどになる。旅客機はビルよりも低い位置にいる。
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