414: ◆X5vKxFyzyo[saga]
2017/09/25(月) 19:58:24.06 ID:4fkctst+O
−−午前十一時三十九分。
軋んだ音が上方から聞こえてきて、中野は上を見上げた。はじめはまるで卵にひびが入ったかのように光が線となって暗闇を切り裂いたかと思うと、光は徐々に細長い長方形になり、最後に白く輝くひとつの面となった。薄暗く死ぬほど蒸し暑いコンテナのなかに、二十四時間ぶりに陽の光が差し込んできた。
永井は昨日と同じように水と食糧のつまったビニール袋をコンテナの底にいる中野めがけて落とした。重力に従って落下してくる食糧を中野は両手で受け止める。腕が汗でぬめっているせいで、あやうく中野はビニール袋を取り落としそうになった。
食糧を受け渡すと、永井はさっさとコンテナの扉を閉めようとした。扉を開けたとき、熱気が蒸気のようにむわっと立ち昇ってきて、はやく退散したかったからだった。
中野「永井! もう水曜だぞ」
永井が開いたコンテナの扉に両手を置いたとき、隅にビニール袋を置いた中野が真上を向きながら大声をあげた。
中野の声はコンテナの内壁に跳ね返り、反響を伴いながら永井の耳に届いた。永井はキーンと響く声に顔をしかめた。
中野が閉じ込められているのは、崖から投棄されたトラックで、そのコンテナ部分に意識を無くしていた中野は放り込まれたのだった。車輌は落下の衝撃でぐしゃぐしゃにひしゃげていて、タイヤも年月の経過によってボロボロになり穴も空いている。コンテナには錆がまとわりついていたが、黒い幽霊でも破壊できないほどの頑丈さは損なわれていなかった。
永井「だから?」
扉を閉める手をとめ、永井が聞き返した。
中野「佐藤を止めるんだよ! このままじゃ大勢殺されちまう」
永井「前にも言ったけど、日本のどこかで他人がどうなろうと僕の知ったこっちゃない」
中野「だったらおれだけでも出してくれよ! 一人でもやつを止める」
永井「僕の居場所を知ったおまえを解放するわけないだろ」
永井は中野の物わかりの悪さにあきれ果てた。
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