328: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/07/08(土) 13:56:38.05 ID:8mPTevMeO
永井が水がせせらぐ切り立った崖の反対側、光を遮る緑の森に背を向けたとき、木々の間に生い繁る瑞々しい青草を踏む音が聞こえてきた。その草を踏む者は森のなかから飛び出してきたかと思うと、アナスタシアの身体に鋭い爪を突き刺そうとする黒い幽霊めがけて跳躍し、その背中に両足で蹴りを食らわせた。
中野「逃げろっ!」
バランスを崩した幽霊は、押しだされたようにアナスタシアを跨ぎ超えた。幽霊が背中をおこし振り向くと、ドロップキックを食らわせた張本人は草の上に倒れていて、肘を地面について身体を起こそうとしている。幽霊はすぐさま左手を開き、腕を振った。アナスタシアの目の上を、黒い線が横切る。中野は肘をついた体勢のまま、黒い幽霊に左手に貫かれてしまった。
身体を貫通し地面に刺さった血に濡れた黒い手が、陽光を受け緑に輝いている木々の枝と手を繋ごうとするかのように上に向けられる。中野の身体が宙に浮く。猛暑日にも関わらずやけに涼しい風が吹いてきて、まるで暑さを運び去ろうというように静かに吹く風に乗って、腹部の傷口、というか穴から溢れた血がまるで風に落ちた葉っぱのようにアナスタシアの目の前の草の上まで運ばれた。青く瑞々しい草の葉にひとつ、赤いアクセントが加わる。黒い幽霊は腕をハンマーのように振り下ろし、中野の身体を地面に叩きつけようとする。黒い幽霊の肩があがるその瞬間、二人してそれで死んだと思われていた中野が、息を吹き返したかのように黒い幽霊の頭部を両手で押さえ込むと、勢い額を幽霊の顔にぶつけた。
頭突きを喰らった黒い幽霊は思いっきり仰け反り、数歩後退すると、崖から足を踏み外した。
IBM(永井)『あ』
その一言を残し、黒い幽霊は崖から落ちていった。永井は目の前で起きた想定外の事態に困惑を隠せなかった。
永井「ええ……なんだ、このひ……」
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