324: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/07/08(土) 13:49:05.46 ID:8mPTevMeO
永井「亜人管理委員会は現在逃亡中の僕の行方を最優先に捜索しているだろう。僕の家族や知人は確実に監視されているし、電話の傍受や盗聴だって行なわれているかもしれない」
アナスタシア「でも、ミナミはほんとうに、とても心配して……」
永井「相手は国だ」
永井はまたしてもきっぱりと言ってのけた。アナスタシアが沈黙していると、永井は淡々と言葉を続けた。
永井「僕の消息に関することがわずかでも洩れたら、政府はふたたび関係者を聴取する。母さんはともかく、姉や入院中の妹を煩わせたくない。ああ、それに下手すればきみも追及されるだろうしね」
言い終わると、永井はまたペットボトルのお茶を口に含んだ。斜めから降り注ぐ太陽の光が小楢の影の位置をずらし、永井が座っているところは明るくなっていた。地面に挿した木の枝は真っ直ぐな影を作っていて、枝と影による二本の線は時計の長身と短針のようだった。永井の位置から影をみると、どれだけ時間が経過したわかるようになっている。
アナスタシアはこれ以上自分がなにかを提案するより、永井が自分をここに呼んだ理由を説明するのを待ったほうがいいと思った。永井のほうが事態を冷静に判断しているし、それに頭も良い。
アナスタシアは永井が話し始めるのを待った。永井は膝の上に肘を置いて、手を脚のあいだに力を抜いた状態で垂らしながら垂直に立っている枝を見つめるばかりでいっこうに口を開こうとしなかった。アナスタシアはちらっと腕時計を見た。永井が来てから三十分が過ぎていた。そろそろここを出発しないと、寮の門限に間に合わないかもしれない。
アナスタシア「あの……電話は言ってました、わたしの助けが必要、って」
永井「そのまえにひとつ聞きたいことがある」
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