306: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/07/08(土) 13:18:39.31 ID:8mPTevMeO
アーニャの気分は良くなったが、それでも地上とはちがう風景の話は忘れられない。次の日も、父親の友人が置いていった山頂からの写真を眺めては、この風景を自分の眼で確かめてみたいと思っている。アーニャはカーペットの上に手足をのばした姿勢で寝転がっていて、あごをくっつけながら焦点をあわせるでもなしにぼんやりと写真に目を向けている。半分眠っているようにもみえるが、突然バッと起き出し、写真を床に置くとカーペットに手のひらをのせ、砂場の砂を寄せ集めるように、黒地に白の線が入ったカーペットの生地を寄せ上げた。きちんと山のかたちになるまで指をぴんとのばしたまま手を動かす。やっと、納得できるかたちになったが、手を離すとカーペットはすぐにへたりこんでしまう。もういちどやり直し、カーペットを山にする。アーニャは手で押さえたままお尻を上げ、それからゆっくりひざを伸ばす。手と足をカーペットにくっつけている姿はまるで猫がのびをしているよう。アーニャはすり足しながら手と足を入れ替える。すこしすべってしまったが、カーペットはまだ十分山のかたちを保っている。両手が自由になったアーニャは角の尖った木製のコーヒーテーブルを掴んで、それを重しにしようとふんばる。上等な楢の木でできたテーブルは五歳のアーニャにはとても重たい。指はピンク色になってるし、足元のカーペットはぐしゃぐしゃの有様。アーニャは疲れて腕の力を抜く。そのとき、押さえつけられていたカーペットの生地が、つるつるした床の上を、砂浜に押し寄せる波のようにすべった。カーペットにのかっていたアーニャは、カーペットの動きとは反対の方向につんのめり、頭はテーブルにむかう。
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