244: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/06/10(土) 21:57:35.96 ID:7K73HWKCO
ハンドドライヤーがたてる唸った風音が、拗ねた子犬のたどたどしい鳴き声のようになったとき、手を乾かしおわった社員が待っていた同僚にむかって言った。
「このままだと死にそうだな」
「永井圭の身がわりってわけか」
プロデューサーは反射的に首を向けた。ふたりの社員はすでにトイレから出ていて、手を離れたドアが閉まりきらずかすかに揺れていた。彼はそのドアを見たまま、ハンカチを持つ手に力を込めることもできずただ言葉を失っていた。
いくらなんでもそれはあんまりだろう。同僚たちの冗談めいた揶揄に、プロデューサーはそう思わざるを得なかった。彼は、永井圭は、死んでしまったというのに。永井圭は亜人だが、生き返ったことを除いて、彼が亜人であったことは、彼や彼の家族の人生になんらプラスに作用していない。ただそうであるというだけで、損なわれた人生を生きることを強いられる。それは、あまりにもフェアではない。
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