229: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/05/16(火) 22:19:45.80 ID:AMJLL1TVO
田中「遅いすよ、佐藤さん」
研究所への進攻前に二人が分かれた地点で待っていた田中が言った。田中のオールバックにした髪はすこし湿っている程度で、いまでは雨はほとんど降り止んでいた。
佐藤「いやあ、永井君が面白い感じに動くから遊んじゃったよ。怒ったフリもしてみるもんだね」
佐藤はしゃがみ込み、ボストンバッグを開けた。中に銃器類をしまい込むと、別のバッグから袋詰めにした衣類を取り出す。
佐藤「さて、いろいろやったけどここから本番だよ」
言いながら、佐藤は田中に取り出した衣類のひとつを投げ渡した。
田中「服? なんすかこれ?」
田中に渡されたのは、生地の薄いブルーの患者着だった。
佐藤「戦略というのはだな、状況に合わせ最も適した……」
血塗れのシャツを替えながらの解説は途中でとまった。佐藤はなにか思い出したように口を開けたままにしている。
田中「なにか問題が?」
田中がジャケットを脱いで、着替えながら尋ねた。佐藤はポンと思いつきを口にした。
佐藤「なんか、ハンニバルみたくなってきたなあ」
田中「はあ?」
佐藤「私がハンニバルだとすると、きみは……」
田中「……クラリスすか?」
佐藤「いや、マードックだな。顔的に」
そう言われても田中に思い当たるところはなかった。そもそも田中はトマス・ハリスの小説はおろかジョナサン・デミによる映画も観ていなかったし、佐藤の言うハンニバルが『特攻野郎Aチーム』のジョン・スミス大佐のことだと最後まで気づくこともなかった。
佐藤「それじゃあひとつ始めますかな! 『作戦は気を持って良しとすべし』だ!」
佐藤はハンニバルの口ぐせを真似しつつ、ネクタイを締めたシャツの上にジャケットを羽織った。
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