224: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/05/16(火) 22:06:18.60 ID:AMJLL1TVO
真っ黒な無貌が口にした言葉には、何の感情も込められていなかった。それゆえ、永井は自分が実際にその言葉を発したこと、そのときとそれからのことに向き合わざるを得なくなった。
永井「そんな昔のこと、言わないでくれよ……」
永井は研究員を引きずるのを思わず止めていた。意識が朦朧としている研究員は、残った意識が感じている感覚が止んだことに気づき、永井にさらに困難が見舞ったのだろうとおもった。研究員は、か細い声が消え入らないように努力しながらつぶやいた。
研究員3「永井……君、いい……逃げ……ろ」
永井「いやだ」
永井がきっぱりと言い切った。マスクの研究員は、永井がここまでやってくれたことを十分だと感じていたし、感謝の気持ちもあった。あの焼けつく恐怖のなか、前触れもなくいきなり死に連れ去られてしまうよりは、いまみたいに、すべての感覚がしだいに遠のいてゆき、暗闇が訪れといっしょに眠るように最期を迎えることができるなら、十分だと研究員は思っていた。そんな研究員がまだ眼を閉じないでいられたのは、永井が指の欠けた手で研究員を抱きかかえ、息も絶え絶えなのに、彼の身体を懸命に引っ張っているからだった。
研究員3『なんで……おれ……なんか……』
自分の身体がまた引きずられはじめたのを感じた研究員がいった。永井は屋上の端をめざしながら、そちらに顔をむけた状態でまくしたてた。
永井「僕は誰とも関わってこなかったしそんな必要なかったし他人なんてどうでもよかった」
永井「かつやっぱり今でも、他人なんてどうでもいい!」
一気に喋ったせいで永井の身体から力が抜ける。永井はおおきく息を吸い、腕に力を入れ直すと研究員の身体をグッと上に持ち上げる。二歩歩き、また息を吸い、ふたたび研究員を引きずる。
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