新田美波「わたしの弟が、亜人……?」
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146:名無しNIPPER[sage]
2017/04/11(火) 00:14:45.01 ID:hkrJS7f6o
今回も良かった


147:名無しNIPPER[sage]
2017/04/13(木) 22:16:47.16 ID:CpHkdxOxO
読むだけで緊張してきた


148: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/04/23(日) 20:33:42.46 ID:5HbT9nK2O
4.待って、行かないで


死の残酷さは、臨終の現実的苦痛をもたらしながら、真の終りをもたらしてくれぬことにある。ーーフランツ・カフカ「八つ折り判ノート」

以下略 AAS



149: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/04/23(日) 20:36:35.60 ID:5HbT9nK2O
美波はラウンジでテレビに見入っている。まわりには寮に住んでいる美波より少し年下の女の子たちがいて、ここにいてもいいのかそれとも立ち去るべきなのかわからないといったふうに少し距離を取っていた。いちばん近くにいるみくにしても、美波の視界に入らない位置に腰を下ろしている。

美波の視線はずーっと真っ直ぐ、テレビを貫くように向けられていて、まるで山頂から向こうの山頂の青く霞んだ景色の中にいる動くなにかを探し出そうとするかのように画面を凝視している。あるいは、念じることで遠く離れた場所に何かの力を作用させようとするかのように。

レポーターが永井圭が捕獲された状況を説明している。彼女の背景には研究所の白い外壁がぼんやりと浮かんでいて、スクリーンのように投げかけられた光の中に過る人々や機器や車の影を映している。ざわめきの波がレポーターの左方向ーー画面を見るものには右側ーーからやって来て、彼女のところまで到達したとき、レポーターは首をめぐらし振り返った。警察車輌に先導された黒塗りのワゴン車が群がる記者たちをゆっくりとだが、確実に無視の態度をあらわしながら走行してきた。研究所の警備員にとって、カメラのフラッシュはほんとうに厄介だった。次から次へとまるで失明を狙うかのように瞬く光を頭を下げて避けながら、押し寄せてくる人波を懸命に押し戻す。研究所のゲートが開き車が敷地内に入っていく。レポーターはその様子を説明しながら、あの車に永井圭が乗っているのでしょうか、とわかりきったことを口にする。
以下略 AAS



150: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/04/23(日) 20:37:20.88 ID:5HbT9nK2O
美波は画面を凝視したまま、自分自身の肉体を締め付けるかのように身体を強張らせた。期待というより願望していた光景とテレビからもたらされる映像はまるで違っていた。リモコンでチャンネルを変えると、別の放送局が別の角度で同じ中継映像を届けている。カメラはゲートのすぐ横から記者の群れを掻き分けて進むワゴン車を見下ろしている。カメラは赤いテールランプを追いかけてパンしたが、その映像はスタジオに返され見れなくなった。美波はまたチャンネルを変えた。まるで機械を演じているかのような動きだ。美波は作動する部分と固定した部分を身体で分割しながら、いまこの夜だけでなくその後何日も同じ動作を反復していた。



151: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/04/23(日) 20:39:40.17 ID:5HbT9nK2O
永井は意識を取り戻し眼は光を受容したが、視界は白一色に染まり何も見えなかった。眼に覆いをかけられているせいだった。瞼に触れる覆いの感触からそれが包帯であることがわかり、さらに全身に包帯がきつく巻かれていることがだんだんとわかってきた。腕に力を入れてみたが、すこし震えただけで上がらない。全身が手術台の上で固定されていた。永井がもがき身を捩るあいだ、自分の喉から出てくる音が声でなくなっていることに気がついた。喉はただの風穴になっていて、隙間風のような空気が漏れ出てくる音しか出さない。声帯が切り取られていたせいだった。


研究員1「トラック事故の現場に残された左腕のDNAと一致」

以下略 AAS



152: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/04/23(日) 20:41:23.49 ID:5HbT9nK2O
切断した左腕を渡してから、研究員は丸のこを金切り鋏に持ち替えた。


研究員3「今度は脳の活動を観察しながらだ」

以下略 AAS



153: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/04/23(日) 20:42:34.06 ID:5HbT9nK2O
背後からがりっという硬く耳障りな音がして振り向くと、手術室の中を見通せる見学室とのあいだに設置されたガラスに爪痕のような四本の線があった。このガラスは強化ガラスだった。ガラスの向こうにいる人物は影になっていて、そのうちの一人の腕が上がりスピーカーのスイッチを入れた。『どうした?』という声に研究員は聞き返した。


研究員3「いや……ガラスの傷、最初からありましたっけ?」

以下略 AAS



154: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/04/23(日) 20:43:44.20 ID:5HbT9nK2O
下村の視線の向いている場所は、研究者や自分を計るかのように見つめる戸崎とは別のところだった。実験中の研究員たちの手前、だれもいないはずの空間に下村は眼を集中させている。


下村「……はい」

以下略 AAS



155: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/04/23(日) 20:45:07.42 ID:5HbT9nK2O
もっと痛みを与えて観察しよう、という研究者の声がして、実際にスピーカーから指示を与えていた。黒い幽霊は何もかもに無関心な様子でぼおっと突っ立ったままで、ぼそぼそと呟きを発している。


戸崎「なぜだ……」

以下略 AAS



156: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/04/23(日) 20:46:04.42 ID:5HbT9nK2O
下村「いま自覚してないとすると『幼少期からずっと』ということになります。長期間干渉しあわないまま過ごした結果、彼と黒い幽霊のリンクは、極めて不安定なのかもしれません……例えるなら、電波状況の悪いところで通話する感じでしょうか。ですから、いずれは彼らを攻撃する可能性が……」

戸崎「いまは?」

下村「え?」
以下略 AAS



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