121: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/03/24(金) 22:35:56.04 ID:NJ9NkxEDO
今度は慧理子が身を乗り出して下村に話しかけた。妹の突発的な行動に美波もつられて下村のほうを見る。顔をあげた下村は返事をするかわりにひとつ咳き込んだあと、身体の内側からのぼってきた血を口いっぱい分吐いた。飛沫がシーツや美波のスカートにかかり、赤い染みをつくった。
慧理子「え?」
下村は激痛に喘ぐ声を口から漏らしながら、頭を下げた。下村の身体を貫いていたのは鳥類の三前趾足に似た三本の大きな爪だった。太めの枝くらいあるその爪は、下村の背中から腹部を貫通していた。下村が苦痛に塗れた呼吸をするたびに爪と傷口の隙間から血液が染み出した。
下村「く、あ゛あ゛あ゛」
下村の身体が突然持ち上がって宙に浮き、天井近くで停止した。蛍光灯の光が近すぎて眼が痛い。下村は、ぶるぶる震える手で苦しみながら三本ある爪のうちの左右にある二本に手をかけた。首を背後、つまり床に向かって回し、自分を襲っているものの正体を見た。
下村「てめえ……!」
下村を持ち上げていたのは、眼も鼻も耳もない人間のような黒い幽霊だった。後頭部まで裂けた口に鋸のようなギザギザした歯が並んでいる。黒い幽霊の口が笑ったように歪んだ。幽霊は腕を振り下ろし、下村を床に投げつけるようにして爪を引き抜いた。落下する下村の身体は床にぶつからず、上半身が慧理子のベットに引っかかった。
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