102:名無しNIPPER[saga]
2017/06/30(金) 22:08:21.27 ID:vG2Ragdn0
23
テレビが流れていた。
タバコをくゆらす男の目はそれを見ていない。
醜くゆがんだ右耳。痩せ頬骨の浮いた顔。
その上酷く目の落ち窪んだ男だった。
彼は真っ白な顔のまま、灰皿がわりのビール缶にタバコをねじ込む。
その横で、ベッドの上でボリボリと腹をかく少女がスマホ片手に言った。
「サラトガが近海で発見だってニュースどうなった?」
「ああそう」
「あいつらの買い物って何時戻り?」
「さあ」
男は新しいビールを開ける。
一息で半分ほど飲むと、男はそこにウィスキーを流し込む。
くるくると男は缶を振る。
水音がテレビの音に混じった。
「ねえそれ、何杯目?」
「うん」
グビリとボイラーを煽る男の後頭部に少女は聞いた。
男は答えない。
少女は立ち上がると、男に言った。
「寝るなら吐いてからにしてよね」
「……それな」
男はウィスキー瓶の蓋を開けた。
明らかに泥酔しているくせに、男の表情は死んでいた。
少女は半ば生ける屍じみた男の脇を通る。
テレビボード横の冷蔵庫から、彼女もビールを取り出す。
そのプルタブに指をかけた時だった。
男が身を乗り出していた。
少女はまた嘔吐しやがんのか、と焦った。
だが男は嘔吐することなく、
テレビ画面を食い入るように見ている。
『…未明、演習の…沈没…現場では…』
「何?どうした?」
少女が問うと、男は立ち上がった。
「……」
何かあったか?と少女は思ったが、
立ち上がらんとする直後に男は体制を崩した。
そのまま千鳥足ゆえ彼は空き缶を踏んで転倒した。
鈍い音がした。
そのまま悪態をつき男は真っ青な顔になった。
「吐くなら便所!」
少女は思い切り、男の背中を蹴り飛ばした。
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