季節走り 心はいつまでも (モバマス)(輿水幸子)
1- 20
12: ◆MhRo2YnWE.V/[saga]
2016/09/28(水) 22:45:39.95 ID:MuKRWnx20
 楽しみにしながら、ただの水になりつつあるアイスコーヒーに口をつける。この日差しの中を歩くなら、水分補給は大切だ。
 ……やっぱりマフラーは早まったかな、と思ったけれど、幸子は着けたままで気にした様子もない。

「歩いていくなら、マフラーは外したほうがいいんじゃないか」

「そんなもったいないこと、しませんよ」

 そう言って幸子は、その名前の通りに幸せそうに笑うのだった。
 ……熱中症には気をつけないとな。

「ごちそうさまでした」

 コーヒーを飲み終わった幸子がすぐに立ち上がる。よし、行くか。
 俺が自分のカバンをつかんで口を閉じていると、幸子はすでに自分の大きなカバンを持って、レジに向かっていた。
 ん、おいおい、まさか俺の分まで払うつもりか。

「お願いします。三千円で」

 さっと支払いを済ませて、幸子は外に出てしまった。俺は慌てておいかける。
 ありがとうございます、というウェイターの声を背に俺が扉を開けると、そこに彼女は立っていた。
 こっちを見て楽しそうに微笑む、マフラーの女の子。
 彼女の背は、俺の顔……口を少し超えて、鼻にさしかかるあたりの高さか。初めて会った時は、俺の胸あたりまでしかなかったのにな。
 ……参ったな。何が参ったのか自分でもわからん。でもまいった。

「さあ、行きましょうか」

「その前に、俺のぶんくらいは払わせてくれ」

「いりません。一度、男の人の分まで支払うのをやってみたかったんです。いい気分ですね」

「……じゃ、ご馳走になるよ」

 幸子は、少しだけ声を出して笑って、俺と並んで歩き始めた。
 優しくなった目が、弓を描く。……笑顔に、鼓動が少し早くなる。
 俺だけにそんな顔を向けて……もったいないとは思わないのか、おい。
 まだそんなことを考える俺は、女々しいかな……。


<<前のレス[*]次のレス[#]>>
59Res/43.78 KB
↑[8] 前[4] 次[6] 書[5] 板[3] 1-[1] l20




VIPサービス増築中!
携帯うpろだ|隙間うpろだ
Powered By VIPservice