89: ◆mZYQsYPte.[sage saga]
2016/09/28(水) 07:04:55.36 ID:NBdSDHsho
結果として艦長の指示は無駄になった。
彼女は走り出し、海兵による包囲を力任せに突破すると瞬く間に甲板の手すりの上まで到達したからだ。
「な、なんだ! やめてくれ」
「おがあさぁぁぁぁん!!」
「夜の海は危険がいっぱい。日本海軍さんはこの場合、何を優先するのかしら」
右脇に小さな女の子を抱え、左手で成人男性の首根っこを抑えた彼女は口だけで笑う。
ビスマルク「あの子、さっき私と握手した……!」
「ほら、落ちるわよ」
ビスマルク「え」
小石でも投げるかのように、彼女は左手を振りかざす。
伸ばされた左手の指先は何も掴んでいなかった。
手すりのすぐ向こう側へ、暗く静かな夜の海へ吸い込まれるかのように男性は落ちていく。
「か……海中転落! 海中転落だ!!!」
一般人がパニックに陥るのと、海兵の一人が叫んだのはほぼ同時だった。
「落ちたぁぁぁ! 人が落ちたぞぉぉぉ!!」
「キャーッ!!! キャァアァァ!」
艦内へ逃げ込もうとする人の流れに、海兵たちは完全に飲まれてしまう。
海兵B「どいてください!! 皆さん落ち着いて!」
「逃げろ! 襲われるぞ! 助けてくれぇぇぇ」
独ヲタA「みんな! 落ち着けよ! 大丈夫だ!」
「おい、押すなよ! 落ちちまぁ……あっ」……ドボン
「う、うわぁぁぁ」
海兵C「こ、こちらでも海中転落っあああああ」ドボン
甲板後部デッキの混乱が極に達したタイミングを見計らい、彼女は女の子に喋りかける。
「手間をかけさせないでよね。……さ、行きましょうかお嬢ちゃん」
そして自らも甲板手すりの向こう側へ、海へと落ちていく。
ビスマルク「どきなさい! どきなさいってば!!」
グラーフ「これでは我々が動けない!」
艦娘の声すら今の一般人たちには届かない。
「艦長! 停止せねば転落者がスクリューに!」
艦長「……もう遅い。観閲部隊旗艦へ打電。緊急事態、海中転落発生、転落者は複数、推進器巻き込みの可能性あり。送れ」
横須賀へと帰港しようとする単縦陣の観閲部隊、そのほぼ中央に位置していたウネビで起こった混乱と事故は、全ての始まりに過ぎなかった。
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