モバP「世界中にヒーローと侵略者が現れた世界で」part13
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6: ◆GPqSPFyVMNeP[sage]
2016/05/07(土) 09:49:50.26 ID:AfaEDJBVO

 10時。オレンジ色のスタッフTシャツを纏う斉藤洋子は、カエン索敵視界の中に小さな藍色の光を捉えた。その正体が何であるか、確かめる必要はない。
 人口密度は平時のネオトーキョーを遥かに超える秋炎絢爛祭期間中の京華学院にて、フィルタリングを強めたカエン索敵でさえ捕捉できる存在。強烈な感情の塊たるカースに他ならぬ。

(ハイッ)

 ささやかな攻撃的思念を放つと、カエン索敵視界を1本の火矢が横切り、藍色に突き刺さった。瞬間、朱色の火柱が立ち、藍色は燃え、清め塩めいた白い灰だけが残った。

《討伐数50達成だ。ポイント報酬は……休憩時間が楽しみだな》

 イヤホンマイクから聞こえる声の主はエボニーコロモだ。彼は洋子をモニターしつつ、露払いとしてカース以外の敵性存在を排除するべく学院内の高所を転々としているのだ。

《この分なら午前中に200に届くか? いや、財布に痛手になりそうだ、150を目安に無理せずやってくれ》

(車の中じゃ、あんなに拗ねてたのに)

 エボニーコロモの口数が多い。その現在位置からは、果たして洋子の表情まで見えているだろうか。勝手にこぼれ出る笑みをこらえるのは至難の業なのだ。
 ……昨日の秋炎絢爛祭二日目に発生した事件により、彼女ら二人は事務所待機を命じられ、下見ついでに客として祭を楽しむ予定が崩壊した。
 もっとも、学院への道中、洋子よりいくらか年上のはずの黒衣Pが大人げなく不機嫌だった理由はそれだけではない。

『会場警備なんかクソだクソ!』

『会場警備? ステージのお仕事とかは』

『女連中の領分さ。俺らは人気が下火だったんで、ひたすら裏方、カースやら厄介どもをシラミ潰しだ。初日から最終日まで休みなくな』

 自動運転の車内、黒衣Pはカラになったゼリー飲料容器を握り潰し、ゴミ袋代わりのレジ袋にねじ込んだ。秋炎絢爛祭は決して楽しい思い出などではない。
 彼の現役当時、洋子のようにカース索敵に優れる者など男性アイドルヒーローにはいなかった。



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