398: ◆/D3JAdPz6s[saga sage]
2023/09/17(日) 00:51:32.99 ID:IYrmd6hRo
少し埃っぽい匂いが部屋に漂っている。
書庫のように林立した金属ラックには、大小さまざまな木箱やトレーが並ぶ。
トレーからは白い布切れにくるまれた、これまた大小さまざまな物体が覗いている。
小さな紙片に整然と文字列が書かれ、トレーに貼り付けられている。
あれらは調査を待つ化石か何かだろうか、とレンジャーは落ち着かない頭で考え続けた。
圧すら感じる夏の日差しもこの部屋ではほとんどわからない。
それもこれも、棚にずらりと並べられた化石たちのためだ。
とはいえ、今はその暑さ寒さも、あってないようなものだった。
近年稀にみる緊張に身体を強張らせながら、レンジャーは木の椅子に腰かけている。
両足を閉じ、膝に両手を載せて背筋を伸ばし、意識が遠のきそうになるのをかろうじて踏み止まっている。
最後にこれほど身の細る思いをしたのはいつだったか。
レンジャーの採用試験で、試験官のひとりが自身の兄であることに気づいたときだったか。
それとも、『初任務』に赴く車内での時間だったか。
同じような椅子に座り、飾り気のない木製の作業卓に片肘を置く男が正面にいる。
目の前に陣取るこの男が誰なのか、レンジャーは知っていた。
むしろ、この地方にあって彼の顔を知らない者はいないはずだ。
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