388: ◆/D3JAdPz6s[saga sage]
2023/08/29(火) 22:55:48.32 ID:Bxagxrqso
ふうう、と意識して息を長く吐き出す。
足が痺れている気もするが、きっと気のせいだろう。
記憶の中の彼は、おおむねいつも豪快に笑っている。
たいていのことは明るく笑い飛ばせる男だったことは確かだ。
怒鳴ったり、激しく怒ることはまずない。
勝負に負けても、いい戦いができたのなら、手を叩いて喜ぶことさえある。
勝ち負けと機嫌の善し悪しは、彼にとって別の話なのだ。
当時の自分には、とても理解しにくい感覚だった。
そもそも彼の負け自体、そう滅多にあることではなかったが。
そんな師匠が、珍しく難しい顔をした日があった。
――私は記憶の中でも膝をつき、正面の硬い地面を睨みつけていた。
サンダルを履いた彼の足が、視界の奥の方に見える。
私たちは、そうだ、私たちは立って向かい合っていたのだ。
最初は。
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