314: ◆/D3JAdPz6s[sage saga]
2018/06/09(土) 23:43:50.33 ID:lH8SKUuEO
男は想像する。
森の奥深く、人間の目の届かない場所がきっとあるはずだ。
友人が『我が子』と呼んだ存在が、そこで静かに潜み暮らしているのだろうか。
自分が知っているのは、巨大なシリンダー状の装置越しに見た姿だけだ。
身体を丸め、目を閉じ、たくさんのケーブルを繋がれている。
今ではどんなふうに成長しているだろうか。
日々の食糧を手に入れることはできているだろうか。
『父親』に言わせると、そういう知恵はなにも持たなかったはずだ。
だが不思議と、飢え苦しんでいる気はしない。
寂しい思いをしてはいないだろうか。
賢い子だから、誤解さえ受けなければきっと大丈夫だ。
広い世界のどこかに、あの子を受け止めてくれる場所がきっとある。
所詮は希望的観測だ、と男はかぶりを振って足元を見た。
地面には使われなくなって久しい線路が埋もれている。
かつての活躍は想像に難くないが、すっかり街を彩る装飾の一部と化していた。
線路の末端も雑草に覆われてよく見えない。
禿頭の男(奴にはああ言ったが、別に確証があったわけではないからな)
禿頭の男(観光がてら、それらしい話が拾えれば奇跡だ、が、まずは……)
男は立ち止まり、がちゃんと音をさせてカートを止めた。
腰に手を当て、目の前に聳える大きな建物を見上げる。
禿頭の男(……さて、ジムある街に来たならば)
禿頭の男(ここはやはり、ジムリーダーらしいやりかたで挨拶をしておかねばな)
禿頭の男(改めて考えれば、まったく難儀なものだなあ、トレーナーという人種は)
男はサングラスの奥で目を細めた。
白く輝く博物館は、沈んだ色合いの街にひときわ目立つ。
そのさらに目立つ正面に、ジムであることを示すエンブレムが堂々と佇んでいるのだった。
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