313: ◆/D3JAdPz6s[sage saga]
2018/06/09(土) 23:31:07.63 ID:lH8SKUuEO
男は立ち止まり、あたりを見回す。
美しい煉瓦造りで統一された古めかしい建造物が並んでいる。
一見したところでは、年季が入っただけの倉庫街にしか見えない。
もっとも、古さのわりにどれも整備は行き届いている。
その中のひとつに目を向ける。
出入口横には、木枠をつけた黒板が立てかけられている。
その黒板に、店名らしき文字が洒落た書体で書かれていた。
しばらく眺める。
若い女性ばかりが頻繁に出入りしている。
とても倉庫として機能しているようには見えない。
意を決して覗き込むとなんのことはない、外側は倉庫のままだが中は古着屋なのだった。
また別の『倉庫』に目を向ける。
そちらはすぐ横に広々としたウッドデッキが設置されている。
店員の格好から、どうやら喫茶店のたぐいらしい、と男は唸った。
同じように、倉庫を画廊や住宅として使っているものもあるようだ。
無骨だが洒落っ気が漂っている。
それがこの街独自の様式と化して、不思議と均衡を保っていた。
男は荷物を引きずりながら、悠々と観光を楽しんでいる。
そのうち、男は気づいた。
禿頭の男(ここからも森が見えるな)
よく考えてみれば街のほとんどの場所から鬱蒼とした木々が見えている。
広い街を、より広い森が大きく囲んでいるのだから当然かもしれない。
それを差し引いても、妙に森の存在が気にかかるのだった。
禿頭の男(かすめる程度にしか見ていないが、やはりずいぶん広いようだ)
禿頭の男(あれほど規模の大きな森なら……まあ、人間に見つからんよう棲むことも難しくはないかもしれん)
禿頭の男(本当にあの森に……なんて、まさかな)
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