312: ◆/D3JAdPz6s[sage saga]
2018/06/09(土) 23:27:42.80 ID:lH8SKUuEO
強い日差しが容赦なく注ぐ。
刺すような暑さは相変わらずで、風が吹いたくらいでは涼しくならなかった。
そんな街角をゴロゴロと重い音が進む。
シッポウシティの片隅に、痩身の男が旅行用キャリーを引く姿があった。
鼻歌を歌える程度には機嫌もいい。
だが汗は、まるで人体が発する警報のように流れつづける。
暑さには強いと自負する男だが、さすがに目は日陰を探していた。
男は被っていた白い帽子を脱ぎ、顔を扇ぐ。
その眩しさに通行人が目を細め、足早に過ぎていった。
当の本人は、周囲のそんな反応を気に留めてすらいない。
ただ景色を眺めては特徴的な街並みに感心しているだけだった。
禿頭の男(気温だけ見ればそう変わらん気もするが、カントーほど辛くないな)
ちらっ、と何かが視界の隅を駆け抜けた。
今のは何だっただろう、と男は何気なく思い返す。
何度目だろうか、どこか時代錯誤な衣装の人影だったように思う。
なにかイベントでもやっているのだろうか、とさほど気に留めなかった。
男は再び帽子を被り、ふう、と深く溜め息をつく。
禿頭の男(やはり、奴が来なかったのは少々残念だなあ)
禿頭の男(いい気分転換になると思ったんだが)
今度は丸いサングラスをずらして目を細める。
木々の遥か向こうに、今しがた渡ってきたばかりの長い長い橋があるはずだ。
それがこの地方に足を踏み入れて二つ目の橋だった。
一つ目は、下船した街にかかる赤く長い跳ね橋だった。
その跳ね橋を見るのも、この旅における目的のひとつだったのだ。
禿頭の男(あの橋、言うほどリザードンには似ていなかったな)
禿頭の男(赤いという意味では十分に赤かったが)
禿頭の男(……さて)
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