218: ◆/D3JAdPz6s[saga]
2017/06/16(金) 23:18:37.21 ID:xCyGumQ8O
暗がりの中で、ふたたびヨノワールの低い声が響く。
何か見つけたのだろうか。
正面の解説パネルと巨大な石の壁に音もなく近づいていく。
アロエは慌てて、ヨノワールの行き先に懐中電灯を向けた。
壁には、正方形に近い石の壁画が二枚、中央に解説パネルを挟んで展示されている。
見上げるほどの石壁は、懐中電灯の遠い光に幽霊じみた曖昧さで浮かび上がっていた。
壁画は人間の背丈より遥かに大きく、ヨノワールと比べてまだお大きい。
それぞれ中央に巨大な何者かが描かれ、よく見ると向かい合う構図になっていた。
アロエ「大きいでしょ」
アロエ「カンナギっていう町にある、大昔の壁画だよ」
アロエ「歴史ある古い町でね、町の中心に遺跡があるんだ」
アロエ「その遺跡を護ってる壁画、ってところかな」
アロエ「といっても、本物はこんな遠くまで持ってこれないから」
アロエ「ここで展示してるのはレプ……そっくりの作り物なんだけどね」
ヨノワールは背を丸め、パネルの解説文を睨んだ。
読めているかどうかはさておき、きちんと文字の流れる方向に視線を動かしているようだ。
このヨノワールは、これまでどんな人間と過ごしてきたのだろうか。
アロエ「ふふふ、大人向けの説明だから、ちょっと難しいかもねえ」
アロエ「そこに書いてあるのはね、シンオウの……」
舐めるようにパネルを見ていたヨノワールが、不意にある部分を指差した。
低く響く鐘のような声を出して、アロエを振り向く。
アロエ「なあに?」
ヨノワールが指す場所を見るため、アロエがパネルに近づいた。
引き摺られるようにしてダゲキも追随する。
自分の子供が小さかった頃を思い出して、アロエは不思議な気持ちになった。
あの頃も、こうして子供に展示物を見せたものだ。
アロエは指差された箇所を声に出して読み上げた。
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